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zoom RSS 田中慎弥(たなか・しんや)著『共喰い』を食(は)む

<<   作成日時 : 2012/07/15 15:15   >>

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(その5) (最終回)
円の葬儀後の、本作の最後に近い場面で、遠馬は千種に対し「もうやらんけえ」と言う。これからはもう千種に暴力は振るわないという遠馬の言葉は、少なくともこの時点では彼なりの本心だと考えていいだろう。実の父親が実の母親の手によって殺害されるという異常な事態の渦中に置かれているのだから。それでもなお、私はどこかしら取って付けた感を否定できない。早い話が、作品を終わらせ、けりを付けなければという作者自身の要請からの科白(せりふ)のように聞こえてしまう(笑)。田中氏自身が一番分かっているかもしれないが。
「俺、絶対、またやるんぞ。」「やらんわけない。あの親父の息子なんぞ。」「・・・千種とセックスして殴らない自信が、おかしいほど、ない。」こうした遠馬自身の赤裸な言葉や内心。また、千種の首を絞めることがあった後、仁子に父親と同じ恐ろしげな目をしていると指摘される場面もある。
彼自身、父である円の血を受け継いだ自分と円との類似性を骨身に染みるように分かっているに違いない。自分もまた女たちとの交合の時、抑えようもなく暴力を振るわずにはいられなくなるだろうという類似を。
円が殺害された後のしばらくの期間は抑えられるだろう。ただ、いずれその根深い欲望が少しずつであれ頭をもたげるのは必至だろう。千種に対してか他の女たちに対してかは不明だが。無論、これは終結した本作の関与しない向こうの物語だ。新しい父、第二の父となった遠馬の新たな生が始まるだろう。単に円の血を受け継いだという他律的、宿命的な生ではなく、自らの意思で選び取り受け入れた「暴力」を担って生きるだろう。そういう形でしか感受できない快楽を捨てた自らの生は抜け殻としか思えないだろうから。死んだ父との一体感が身に染み、しかもそうとしか生きられなかった円の哀しみも時とともに見えてくるに違いない。そればかりか、円と似た形の死さえ自身どこかで受け入れようとしている・・・。
私のそんな短慮な推測を乗り越え、遠馬には生き延びてほしいが・・・。

唐突に響くかもしれないが、私には『共喰い』は叶えられなかった円と遠馬の父子相姦の物語とさえ思える。本作の一番遠くの極みにその図柄が茫と浮かび上がる。現実には反発し嫌悪し続けた筈(はず)の父に対する、遠馬本人も(恐らく円も息子に対する情動としては)気づくことのなかった一番深層に潜んでいた願望の形姿が、父の死後、解禁されたように遠馬の目に徐々に見えてくるかもしれない。やや強引に結び付ければ、それは、タイトルにも用いられている「共食い」という語自体の、元々隠されている究極の意味合いの一つかもしれないとも思う。

最後にもう一言付け加えたい。円殺害後、逮捕時、警察に対して、「社で出会うて始まったんです」と仁子は語る。円殺害の直接的な動機は、息子と付き合っている千種を強姦した円に対する許し難さや憤りからだろう。ただ、その行為の深部に、そうすることで円を他の女たちから取り戻したい、もう他の女たちには渡さない、円を究極的に丸ごと独り占めしたいという仁子の屈折した積年の願望と切なさを私は見てとる。
仁子の手にかかって死んでいこうとする円の目に滲(にじ)み出た哀しみを、ああいう形でしか俺は快楽を手に入れることができなかったんだと告げる哀しみを、仁子は見たのではないか。遠馬には円の死後見えてくるそれを。仁子が円の最期に私にも分かっていた、と目で円に伝えたかどうかまでは分からない。

「奇怪」なものを書こうとしているな、書き始めてはみたもののやはり打ち切った方がいいかな、などとあれこれ迷いながら結局最後まで書いてしまいました(笑)。付き合い、読んでいただいた方々には感謝の語があるのみです。
《蛇足に近い追記》
これまでの生涯、掘られる歓びはもとより、掘る歓びも私は多いに味わっています(笑)。
(2012.7.15)

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