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zoom RSS 黒田夏子(くろだ・なつこ)著『abさんご』遊行(ゆぎょう)

<<   作成日時 : 2014/10/29 13:27   >>

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第148回芥川賞を受賞した黒田夏子(1937《昭和12》〜)の小説『abさんご』は不可思議な作品だ。玄妙とも面妖とも茫洋とも夢幻とも、思いつくいくつかの言葉を並べても、そのどれからも身をかわし、作品だけは手つかずのままひっそり静まっている風体(ふうてい)だ。
 私(荻崎)がこれまで読んだ小説の中で、不可思議な思いを抱(いだ)いた作品として思い浮かぶのは、例えば、フランスのアンチ・ロマンと言われたクロード・シモンの『歴史』だったか(違ったか)、アラン・ロブ・グリエの『消しゴム』だったか、更に、フランツ・カフカの『城』、ジャン・ジュネの『葬儀』、ゴンブロヴィッチの『ポルノグラフィア』、マンディアルグの『海の百合(ゆり)』、日本の作家では夏目漱石の『夢十夜』などだ。また、映画で一つだけあげると、鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』か。
どれも私の中のおぼろげな記憶をたどって書いているに過ぎないが。
 ともかく、それらの作品と、ほんのわずかであれどこかしら重なる感がしないでもないものの、『abさんご』はやはりそれらのどれからも身をかわし、異質なたたずまい持った作品のようだ。
 私が読んだのは「文藝春秋」2013年3月号に掲載されたものだが、同誌に載る下重暁子(しもじゅう・あきこ)氏によるインタビューを読むと、作品の基本の枠組みは、作者の幼年期から今に至る、実の家族や家庭の有り様(よう)と重なるふうだ。
 四歳の時に母親を結核で失ったこと、その結核が作者にも感染したものの小学校入学の前に治ったこと、学究だった父親と二人で暮らしたこと、 学生時代なのか卒業後なのか、もっと後なのか一人で家を出たこと、父親との暮らしの中に恐らく家事手伝いの者が同居したことなど、実体験と重なる事柄を一編の骨格として用いながら、私小説的、伝統的な実直な描き方とはがらりと異なる、何やら茫々とした、深い霧の中に迷い込んだふうでありながら、一場、一場が読む側の深部にさらさらと流れ込み、時に、生々しい手応えとともに立ち現われてくる。
 顕微鏡でも覗くふうな、接写するふうな描写と、望遠するふうな表現が渾然と溶け合い、時間と空間、生と死、過去と現在が蕩(とろ)け合った言葉の空間が生み出されている。
横書きはともかく、ひらがなを多用した、うねうね打ち寄せる波めいて染み入る文章からは、『かげろふ日記』や『和泉式部日記』などの平安朝の女流日記と近しいものを感じたりもする。
 いずれにしても、作者の長年にわたる日本語との深交や格闘抜きには生まれなかった作品だろう私は思う。

「どの時点でもそうするしかしかたのないことをしていた者は、どの時点でもすでにあきらめていたようである.(中略)臨死者とひかる十ねんをくらした土地の草いきれのうつつなさで,そのあちこちに青い虹たちを見うしなうときのひとすじごとのすべのなさで,はるかむかしからあきらめられていたようでもある.」

 第13章<虹のゆくえ>の終りの文章を引用した。私の気に入った個所の一つだが、重層する記憶とともに、背後を喪失感がたゆたいながら流れている。
 最後に、タイトル『abさんご』について。
 「ab」は作品の最初と最後に使われているから分るとして、「さんご」とは何か。作品本文にはこの語は用いられていない。上記のインタビューでも、同誌に載る9人の選者の選評でもタイトルについて言及がないのは、私にはもうひとつ腑(ふ)に落ちない。
最初はごく単純な連想で「珊瑚」のことかと私は考えた。さんごが海の中で枝(?)を伸ばし広がる様を作品の中味になぞらえたか。とは言え、私自身実物の珊瑚をいつどこで見たかとなると心許(もと)ないが。それはともかく、珊瑚ではどうにもしっくりこない。第一、作者は作品の中でひらがなを多用しているものの、意味を取り違えられる恐れのある文字には漢字を使うなど、細心の注意を払っていると思われるから。タイトルだから敢(あ)えてひらがなにしたというわけでもないだろう・・・。
 ふと、私が思い付いたのは(いかにも暇ですね!)、「さんご」は「35」、すなわち3×5=15。本作は第1章<受像者>から第15章<こま>までの15章から成っている。前後をabで囲まれた15章からなる作品、ということではないか・・・。
何やら拍子抜けするような、人を食ったような話になるが。いずれにせよ、タイトルの真相は、作者本人に聞かないことには分らない。

 本作を始め、上述のような不可思議な味わいのある作品に、昔から引かれる性向が、私には抜き難くある(不可思議の中味にもよるのだろうが)。男であるのに男の体に心底引き付けられるという、動かしようもない私の性の指向と、間違いなく深いところで関わっていると思う。ただ、それに関しては、今回はこれ以上深入りしないことにしよう(笑)。

(画面左上の画像、読みにくくて恐縮ですが、クリックすると、やや読みやすい別の画面になるようです) 

前回の更新から、半年近く経ってしまい、これでは忘れ去られても仕方がないですね。気長に付き合っていただけたら幸いです。(苦しい言い回し!)

(2014.10.29)

 

 

 
 
 


 

 

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コメント(3件)

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萩先様

教えてください。

20年以上前の薔薇族もしくは、アドンで掲載された読み切り漫画で

真夏の暑い日に若い青年が昼間に自室のベッドで激しくオナニーをします。
高層マンションの為、青年は完全に油断!!
3回もオナニーをしてそのまま寝てしまいます。
・・・が、近くの高層マンションから、ある男がその一部始終を望遠鏡で目撃し望遠カメラで撮影。
後日、その青年に自分の恥ずかしい写真が郵送されてくる。
驚く青年!!そこに男より電話・・・男の指示で青年は脅迫され、自室で全裸にされベランダに出てオナニーを強要される。
屈辱と恥ずかしさの青年は、男の言うがままに。
男は、「もう君は俺のものだ俺の奴隷としてとことんまで辱めてやるからね」とその光景を見ながらベランダでオナニー・・・
が、また、近くのマンションより同時間に望遠鏡で景色を眺めていた若いゲイカップル?が目撃!!
「あいつの姿を望遠カメラで撮って送りつけてやろうぜ。そうすると、あいつ俺たちの奴隷だぜ」と提案。相方は「そうだな。」と賛成。
だが、そのオナニーシーンを見られていたのは、脅迫していた男だった。

そこで、終了!!

この漫画が、俺のトラウマになり、また是非、読みたくてたまりません。
掲載されていた雑誌名・何年何月号がご存知でしたら教えてください。
また、その号をお持ちでしたらコピーで構いませんのでお譲り下さい。
苦節20数年の夢をかなえてやって下さい。
ご協力お願いいたします。
ゆうき
2014/12/11 10:22
コメントありがとうございます。名前は《荻崎(おぎざき)》が正確です!
お尋ねの漫画については、残念ながら分かりません。
「薔薇族」などは、国会図書館などで調べることもできますね。
荻崎正広
2014/12/11 15:56
荻崎様

お名前の誤字、お許しください。

ご尽力ありがとうございました。

地道に探してみます。

今後、益々の荻崎様のご健康とご発展をお祈りしています。

お世話になりました。

ゆうき
2014/12/14 12:02

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