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zoom RSS (中編小説) 陶酔する水流の歳月

<<   作成日時 : 2017/07/31 16:12   >>

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(第14回)
 外は十一月の雨が降っていた。十五年前、雨が降り、十五年先、雨が降る。三十五年先にも雨は降るか。そのたびに、なけなしの旨みととろみに有り付きながら、雨に見入っている牧島が見える。
 また歩いていた。歩くしか能がないふうだった。川になって流れてもよかった。流れ続け、染み入ることができるなら、どこへでも流れていけばいい。川になって染み入り、蕩かし、蕩かされる。流れ続ければ、それが叶うと一時(いっとき)感じられた。それでよかったのか。
 男の肌を貪(むさぼ)ることが増えるごとに、秋、樹木が一枚葉を落とすにも似て、自身がほんの少し軽くなると感じられたりもする。何重にも纏(まと)いつく男への欲念が、ほんの少しだけ晴れるからなのか。これも七十近くなったことによるものか。いずれにしても、心身が少しでも軽く感じられるのはよいことだった。もっと精を出しどんどん好みの男とまぐわえば、葉が一枚散り、また一枚散り、更にじわじわ軽くなっていけるのか。軽くなるほど、初めてまぐわう男を含め、手を出し、誘うことが幾分なりともっと軽(かろ)やかにできるようになる、そんな思いがどこからなのか染(し)み出てくる。
 更にどんどん軽くなり、やがて我が身が木(こ)の葉一枚になって、風に流されどこか虚空へ消えていく・・・。長く生きてきたからには、別の声が聞こえてきたことはなかったのか。耳をふさいだことがあったのか、なかったのか。長い間には、幾つかの声が伝わってきてもおかしくはないのだから。
 そう考えたりするものの、やはり一つの声しか聞こえてこなかったようだった。他の声は拒んだのだろうか。ただ、そう思い当たる記憶が見当たらなかった。記憶から意図して消したとも思えなかった。一つの声を追うしかなかった。
 ついさっきまでいた、さる都立の庭園内ではよく晴れ、陽射しも行き渡っていたと思えたのに、いつのまにか雲が広がり、風が立ち、雨が降ってきた。季節がら、時雨(しぐれ)か。十二月の上旬だった。時雨自体、このところあまり合っていないな、と思う暇もないくらい、雨はたちまち止んだようだった。
 時雨にかこつけて、思いも寄らないいい出会いがあるかなと思わない訳ではなかったが、足を運んだ館ではこれというほどの出会いはなかった。時雨は時雨だったか・・・。
 不意に光が広がった。茫と明るんだのは、そのためだろう。眼は閉じていたか、それとも薄っすら開けていたか。いずれにしても、人工の光でも自然の光でもなかった。壮年の男は自身四つ這いに近い体勢で、若い男を掘っていた。さっきから真後ろでその壮年の男の尻に両手を這わせていた牧島が尻の芯をじっくり舐めやすいように、男は尻を突き出してくれた。その最中(さなか)に牧島の眼元から薄めの光が広がった。光は遠くから射しているのか近いのか。その光とともに、男の尻の芯とその奥処(おくが)が、牧島を一度も行ったことのない遠い所へ連れ出してくれると思えた。男の尻は際だって大振りという訳ではないものの、上向きに盛り上がり、両の尻たぶはよく締まっていた。若い男を掘る動作の中で、男の尻も前後に動き、牧島の顔と舌はぴたりその動きから離れなかった。この光の真っ芯に入れば、後は身を委ねるだけかもしれない。どこに行けるのか。心身が丸ごと蕩けるどこかへ。丸ごと蕩けようと望めばいつでも叶うところ。この世であって、この世でない、あの世などと名付けられる世では更にない、どこか・・・。ここへ来るために今日まで歩いてきたと思えるところ。
 この光の真っ芯を潜(くぐ)り抜ければ、そこにたどり着く・・・。霧雨が降るにも似た静けさだったが、聞き紛うことのない声が牧島に届いた。

(2017.7.31)

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