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zoom RSS (中編小説) 陶酔する水流の歳月

<<   作成日時 : 2017/07/22 12:52   >>

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(第11回)
 不思議な夜だな、今まで何回となく通ったが、こうした光景は初めての気がする、とは考えたものの、牧島自身取り立ててこの状況にたじろぐことも驚くこともなかった。無論、夢を見ている訳ではさらさらなかった。覚め過ぎるくらい覚めて歩いていた。今まではただ気づかなかっただけかもしれなかった。覚め過ぎるほどだから見えたのかもしれない。
 さすがに、少しくらいは驚くかと思った、という声がうっすら聞こえたかもしれない。七十年近く生きてきて、その間、思うことはただ好みの男の裸、取り分け、尻と男根だったからには、歩いている道の両側をそれらが占めていて当たり前だった。それ以外欲しいものなど何一つなかったのだから・・・。歩いていく通りの両側どころか、街という街、建物という建物、大地という大地、あらゆる山も川も地上の一切が、欲しくてしょうがない男たちの尻と男根で埋め尽くされていて、やっと吊り合いが取れる、と思ったくらいだ。そうなって牧島とこの世がやっと五分五分の気がした。以前、海の近くから登った山の展望塔からの眺望だけでは足りなかった。
 今夜よりもっと覚めに覚め切った夜、満を持してこの通りに向かう・・・。その時はたっぷり時間を取って、群がる尻と男根の中でも取り分けそそられるものを贅沢に選び、心行くまで味わおうと考えた。飛び切りの日が来るのが待ち遠しかった。
 改めて眼を凝らすと、牧島の残りの生涯の時間という時間を、一段と選び抜かれた尻と男根が果ての果てまで埋め尽くしていた。生存の時間だけでは足りず、死後まで一面に埋めていた。
 ターミナル駅はもう少し先だった。

 何日か後、陶磁器の展覧会場に入った。明暗の異なる焦茶色の陶の焼き物があった。それは矩形三面で構成されていた。小さな椅子の形にも似ていた。「馬」と題されている。写実とはかけ離れているが、首を垂直にして立つ馬をかたどっている。牧島は一目でそそられた。男が、四つ這いで真後ろから尻を深々と掘られながら、首を垂直にのけ反らせている・・・。眼の前の「馬」ほど、腹や胸から頭部にかけてぴたり垂直ではなかったにしろ、牧島自身、長い歳月の中で何度となく作った形であり、逆に、男を真後ろからざっくり掘りながら、右手で男の首を立て作らせた形だった。さすがに馬となって嘶(いなな)くことも、嘶かせることもなかったが・・・。
 男を乗せて、真後ろからずぶずぶ掘られながら野を歩いているうちに、同じ恰好でいつしか馬となって野を駆け、やがて、掘られに掘られたまま天馬(ペガサス)となって空を飛んでいる・・・。七十歳に手が届こうとする生涯、若年の頃も、高齢になってからも、牧島が繰り返し思い描いた映像だった。必ずしも馬とは限らず、空を飛ぶとも限らず、人間のままだったり、半人半馬(ケンタウロス)だったり、他のものだったり様々だったが。
 過去のこうした映像は、本人を離れたどこかに溜(た)められているのか、それともそのつど雲散霧消するのか・・・。溜められている訳もなく、他愛もない想念だとは思いながらも、ひょっとすると、本人の記憶の層とはまるきり別の所に、本人にも、誰にも気づかれないままに、仕舞われている・・・。時折、そんな尚更他愛もない思念が、妙に深みを伴って牧島を立ち止まらせたりするのだった。どこに仕舞われているんだよ、教えてくれ、見つけに行ってくるから、などという白々とした声にもたまにはちゃんと耳を貸してもよかったかな、とちらっと考えた。

(2017.7.22)


 

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