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タイトル 日 時
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第14回)  外は十一月の雨が降っていた。十五年前、雨が降り、十五年先、雨が降る。三十五年先にも雨は降るか。そのたびに、なけなしの旨みととろみに有り付きながら、雨に見入っている牧島が見える。  また歩いていた。歩くしか能がないふうだった。川になって流れてもよかった。流れ続け、染み入ることができるなら、どこへでも流れていけばいい。川になって染み入り、蕩かし、蕩かされる。流れ続ければ、それが叶うと一時(いっとき)感じられた。それでよかったのか。  男の肌を貪(むさぼ)ることが増えるごとに、秋... ...続きを見る

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2017/07/31 16:12
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第13回)  公園に来た。石の敷き詰められた川に水は流れていなかった。一ヵ月ほど前に来た時は雨が降っていた。雨だから水を流していないのかと始めは思ったが、石の柱が立つ東屋(あずまや)風の休憩所に掛けられた掲示に気づいた。雨のせいではなく、水を流す期間から外(はず)れていたためだった。この日も掲示どおり水は流れていない。滝の水も落ちていない。だいぶ前になるが、最初に訪れた日は、運よく水の流れる期間に属していた。  水が無く動きと潤いに欠ける分、木々と石組に思いを向ければよかった。十一月も半ば... ...続きを見る

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2017/07/29 01:48
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第12回)  鉢の内側の底に、雪の紋が放射状に焼き付けられていた。雪は薄い灰色に見えた。ただ、一番底の芯の部分は空白だ。鉢の中ほどあたりの、底とは形の異なる濃い灰色の雪の紋は、内側を一周している。内側の底の空白の芯に横たわる香芝の真裸に臆せず近づいていくと、雪がいっせいに牧島に向かって吹き始めた。一歩近づくごとに、吹き募った。吹雪になった。吹雪は香芝の&#36544;の真っ芯から吹き起っていた。牧島は吹雪の源に手を伸ばした。香芝の肌に届いたのか、届かなかったのか。肌に手を這わせようと、臆すこ... ...続きを見る

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2017/07/24 23:38
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第11回)  不思議な夜だな、今まで何回となく通ったが、こうした光景は初めての気がする、とは考えたものの、牧島自身取り立ててこの状況にたじろぐことも驚くこともなかった。無論、夢を見ている訳ではさらさらなかった。覚め過ぎるくらい覚めて歩いていた。今まではただ気づかなかっただけかもしれなかった。覚め過ぎるほどだから見えたのかもしれない。  さすがに、少しくらいは驚くかと思った、という声がうっすら聞こえたかもしれない。七十年近く生きてきて、その間、思うことはただ好みの男の裸、取り分け、尻と男根だ... ...続きを見る

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2017/07/22 12:52
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第10回)  香芝との間がずるずる離れていき、このまま見過ごせば今までよりもっと取り返しがつかなくなるという声が耳元を掠(かす)めるのを無視した訳ではなかったが、牧島は立ち上がらなかった。取り返しがつかないのは慣れているさ、と居直る思いも幾らかはあった。今までだって、いつも取り返しがつかないところからやり直している、と声がする。  もし、今、香芝を急いで追って再び声を掛けるようなまねをしたら、それこそ香芝との間は終わりになるさ、香芝とのことは俺が一番年季が入っている、と強がる牧島の視線の先... ...続きを見る

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2017/07/19 13:03
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第9回)  別の日、別の通りを歩いていた。歩道の両側は銀杏(いちょう)の大木が続く並木になっている。車道を挟んで、両側が同じ形の並木だった。陽(ひ)は枝々にびっしり盛られた葉に遮られ、風が心地よく通り抜けていく。  牧島は歩道の端にほぼ等間隔に置かれているように見えるベンチに腰を下ろした。木のベンチだが手すりは鉄製だろうか、緑色の塗料が塗られている。塗料の色合いと銀杏の葉がほぼ同色だった。テニスのボールを打つ乾いた音が間近に聞こえる。歩く人、自転車に乗る人、ベビーカーを押す人などが通るもの... ...続きを見る

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2017/07/15 13:11
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第8回)  「おまえの尺八は死後格段に濃(こま)やかになりこくと切れが高まった。生前も並外れて熟達していたが。今のおまえの尺八には、生者であれ死者であれほかには誰も行き着くことのできない冴えがある」  香芝の言葉を受けて、《生前ここまでたどり着けずに申し訳ありませんでした》と尺八しつつ眼で香芝に伝える。それを受けて、香芝は右足を上げ、親指の先で香芝の喉元辺りを軽く突く。 「今日はおまえがよく降っている。風もある。薔薇という薔薇の芯にも花弁にも葉にもおまえは染み込んで行く」  その声に顔... ...続きを見る

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2017/07/11 01:25
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第7回)  幻だってかまわないさ。現し身でなくたって困らないよ。居場所などない方が清々する。長く生きていく中で、いつの頃からか、そんなふうに感じられるようになった気がする。現し身でなければ始めからこの世になんの義理もないんだから、自由に好きなようにやる。この身が欲しがるものを何に気兼ねもなく欲しいだけ欲しがるだけさ・・・。  展望塔と四方八方見放題の風光は、吹き渡る風に似て牧島の心身を軽やかにする。幻だろうが何だろうが、この身が欲しがる男たちの裸を欲しいだけ最後の最後まで貪り続ける。この身... ...続きを見る

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2017/07/08 13:09
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第6回)  標高は250メートルに届かない山頂だが、海に近い辺りから登り始めるので、数字以上に急な登りが多かった。と言っても登るばかりではなく、途中にはかなり長い下りもあって、ひょっとして道を間違えたかなと不安になるくらい、なかなか奥が深いと何度も感心しながらの歩きだった。  山頂に建つ展望塔からの眺望は文句のつけようがなかった。四方八方遮るものはひと欠けらもない、真裸の風景だった。海、山、森、街区、ビルの群れ、島、船、青空。風も陽射しも強めに吹き抜け、降り注ぐ。  眼に入る森の多くは広... ...続きを見る

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2017/07/05 13:10
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第5回)  見たばかりの、磁器の内側に絵付けされた薄墨や吹き重ねの植物の文様を、早速、手に入れたばかりの男の肌に入念に描(えが)いてみる。効果がじわじわ現れ、男が一歩深みからうれしがり、真っ芯で反り返る。それを牧島の舌も手も一滴零さず掬(すく)い取る。 また更に、数日前に手にした、立て掛けられた二枚の障子の表に、桜の花弁を模した影が幾つとなく繰り返し流れる映像を、有り付いたばかりの男の肌の面(おもて)に植え付ける。男の胸と言い、背中と言い、尻と言い、太股と言い、何百、何千の桜の花弁がひ... ...続きを見る

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2017/07/01 01:24

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荻崎正広World 2017年7月のブログ記事/BIGLOBEウェブリブログ
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