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みんなの「小説」ブログ

タイトル 日 時
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第17回) (最終回)  川は右手に流れている。しばらく聞かなかった瀬音が思いの外(ほか)快い。「俺に向かって流れているつもりか」と、とがめる響きを持たない声が立つ。半分は予期していた。何も考えていなかった気もする。水の冷えが後押ししてくれることもありそうだ。誰に向かって流れていたのか、何十年というもの流れ続けた果てに、誰かいたのか。流れ続けたから、香芝も浜坂もいなくなったのか、それとも流れることを怠ったからか。生きていれば、どちらかに流れ着く、そう居直ったってかまわなかった。放っておけば、... ...続きを見る

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2017/08/05 12:46
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第16回)  牧島は新たな流れの前に立つ。「会えるかと思って、いつもより早く来た」と牧島が言う。「一度出したから・・・。朝から来ていた。もう帰る」と男は言う。さっき、「久し振りですね」と言って、立って軀を拭いていた男の尻に手を置いた。一ヵ月振りに来たが、この男の軀に有り付くのはまたしても先送りだ。一度だけまずまず味わってからもうだいぶ経つ。拒むのと受け入れるのが混ざり合っているものの、今のところ拒むほうが優勢だ。  他(ほか)の日他の所で、もう少し遅い時間に一度... ...続きを見る

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2017/08/03 17:08
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第15回)  坂を下(くだ)って行った。なだらかな坂だった。もう何度も下ったことがあった。下った先に名の知れた池があることも無論分かっている。歩を運ぶごとに心地よさを覚える坂だった。歩きながら、そのつどどこか過去へ下っていくふうな、逆に未来へ降りていくふうな味わいも覚えたりする。というより、この現在の只中(ただなか)の、より奥へ更にもう一歩深部へと入っていく感覚だったか。ただ、一歩また一歩奥や深部に入るほど現在の様相が色濃く感じられるというのとは逆に、茫とぼやけ肝心の現在自体からふっと放り出... ...続きを見る

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2017/08/02 13:25
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第14回)  外は十一月の雨が降っていた。十五年前、雨が降り、十五年先、雨が降る。三十五年先にも雨は降るか。そのたびに、なけなしの旨みととろみに有り付きながら、雨に見入っている牧島が見える。  また歩いていた。歩くしか能がないふうだった。川になって流れてもよかった。流れ続け、染み入ることができるなら、どこへでも流れていけばいい。川になって染み入り、蕩かし、蕩かされる。流れ続ければ、それが叶うと一時(いっとき)感じられた。それでよかったのか。  男の肌を貪(むさぼ)ることが増えるごとに、秋... ...続きを見る

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2017/07/31 16:12
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第13回)  公園に来た。石の敷き詰められた川に水は流れていなかった。一ヵ月ほど前に来た時は雨が降っていた。雨だから水を流していないのかと始めは思ったが、石の柱が立つ東屋(あずまや)風の休憩所に掛けられた掲示に気づいた。雨のせいではなく、水を流す期間から外(はず)れていたためだった。この日も掲示どおり水は流れていない。滝の水も落ちていない。だいぶ前になるが、最初に訪れた日は、運よく水の流れる期間に属していた。  水が無く動きと潤いに欠ける分、木々と石組に思いを向ければよかった。十一月も半ば... ...続きを見る

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2017/07/29 01:48
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第12回)  鉢の内側の底に、雪の紋が放射状に焼き付けられていた。雪は薄い灰色に見えた。ただ、一番底の芯の部分は空白だ。鉢の中ほどあたりの、底とは形の異なる濃い灰色の雪の紋は、内側を一周している。内側の底の空白の芯に横たわる香芝の真裸に臆せず近づいていくと、雪がいっせいに牧島に向かって吹き始めた。一歩近づくごとに、吹き募った。吹雪になった。吹雪は香芝の軀の真っ芯から吹き起っていた。牧島は吹雪の源に手を伸ばした。香芝の肌に届いたのか、届かなかったのか。肌に手を這わせようと、臆すこ... ...続きを見る

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2017/07/24 23:38
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第11回)  不思議な夜だな、今まで何回となく通ったが、こうした光景は初めての気がする、とは考えたものの、牧島自身取り立ててこの状況にたじろぐことも驚くこともなかった。無論、夢を見ている訳ではさらさらなかった。覚め過ぎるくらい覚めて歩いていた。今まではただ気づかなかっただけかもしれなかった。覚め過ぎるほどだから見えたのかもしれない。  さすがに、少しくらいは驚くかと思った、という声がうっすら聞こえたかもしれない。七十年近く生きてきて、その間、思うことはただ好みの男の裸、取り分け、尻と男根だ... ...続きを見る

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2017/07/22 12:52
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第10回)  香芝との間がずるずる離れていき、このまま見過ごせば今までよりもっと取り返しがつかなくなるという声が耳元を掠(かす)めるのを無視した訳ではなかったが、牧島は立ち上がらなかった。取り返しがつかないのは慣れているさ、と居直る思いも幾らかはあった。今までだって、いつも取り返しがつかないところからやり直している、と声がする。  もし、今、香芝を急いで追って再び声を掛けるようなまねをしたら、それこそ香芝との間は終わりになるさ、香芝とのことは俺が一番年季が入っている、と強がる牧島の視線の先... ...続きを見る

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2017/07/19 13:03
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第9回)  別の日、別の通りを歩いていた。歩道の両側は銀杏(いちょう)の大木が続く並木になっている。車道を挟んで、両側が同じ形の並木だった。陽(ひ)は枝々にびっしり盛られた葉に遮られ、風が心地よく通り抜けていく。  牧島は歩道の端にほぼ等間隔に置かれているように見えるベンチに腰を下ろした。木のベンチだが手すりは鉄製だろうか、緑色の塗料が塗られている。塗料の色合いと銀杏の葉がほぼ同色だった。テニスのボールを打つ乾いた音が間近に聞こえる。歩く人、自転車に乗る人、ベビーカーを押す人などが通るもの... ...続きを見る

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2017/07/15 13:11
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第8回)  「おまえの尺八は死後格段に濃(こま)やかになりこくと切れが高まった。生前も並外れて熟達していたが。今のおまえの尺八には、生者であれ死者であれほかには誰も行き着くことのできない冴えがある」  香芝の言葉を受けて、《生前ここまでたどり着けずに申し訳ありませんでした》と尺八しつつ眼で香芝に伝える。それを受けて、香芝は右足を上げ、親指の先で香芝の喉元辺りを軽く突く。 「今日はおまえがよく降っている。風もある。薔薇という薔薇の芯にも花弁にも葉にもおまえは染み込んで行く」  その声に顔... ...続きを見る

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2017/07/11 01:25
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第7回)  幻だってかまわないさ。現し身でなくたって困らないよ。居場所などない方が清々する。長く生きていく中で、いつの頃からか、そんなふうに感じられるようになった気がする。現し身でなければ始めからこの世になんの義理もないんだから、自由に好きなようにやる。この身が欲しがるものを何に気兼ねもなく欲しいだけ欲しがるだけさ・・・。  展望塔と四方八方見放題の風光は、吹き渡る風に似て牧島の心身を軽やかにする。幻だろうが何だろうが、この身が欲しがる男たちの裸を欲しいだけ最後の最後まで貪り続ける。この身... ...続きを見る

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2017/07/08 13:09
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第6回)  標高は250メートルに届かない山頂だが、海に近い辺りから登り始めるので、数字以上に急な登りが多かった。と言っても登るばかりではなく、途中にはかなり長い下りもあって、ひょっとして道を間違えたかなと不安になるくらい、なかなか奥が深いと何度も感心しながらの歩きだった。  山頂に建つ展望塔からの眺望は文句のつけようがなかった。四方八方遮るものはひと欠けらもない、真裸の風景だった。海、山、森、街区、ビルの群れ、島、船、青空。風も陽射しも強めに吹き抜け、降り注ぐ。  眼に入る森の多くは広... ...続きを見る

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2017/07/05 13:10
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第5回)  見たばかりの、磁器の内側に絵付けされた薄墨や吹き重ねの植物の文様を、早速、手に入れたばかりの男の肌に入念に描(えが)いてみる。効果がじわじわ現れ、男が一歩深みからうれしがり、真っ芯で反り返る。それを牧島の舌も手も一滴零さず掬(すく)い取る。 また更に、数日前に手にした、立て掛けられた二枚の障子の表に、桜の花弁を模した影が幾つとなく繰り返し流れる映像を、有り付いたばかりの男の肌の面(おもて)に植え付ける。男の胸と言い、背中と言い、尻と言い、太股と言い、何百、何千の桜の花弁がひ... ...続きを見る

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2017/07/01 01:24
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第4回)  これからもあてどなく流れるのか、あてどなど初めからある訳がないという声を受け止める。そんなことは分かっていた、か。違うやり方がある、それもある訳ないか、別の道に迷い込むことだってあるさ、その声は何十年も聞いてきたが、別の道はもっとなかった。  十歳を少し越えた頃か、行く手がぼやけていればいるほどくきやかに見えた。見えない振りをすることさえ無理だった。見え過ぎる、これでは見え過ぎると時折呟(つぶや)いた振りをした。そうするのが関の山だった。  逃げに逃げた。逃げ切ったかはまだ分... ...続きを見る

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2017/06/26 16:13
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第3回)  「洗っているから・・・」、一度目と同じシャワーを使いながら、日を経て浜坂が二度目に口にした同じ言葉から、牧島を突き飛ばす苛立たしさは抜け、静まっていたのに、その言葉を聞くそばから浜坂が跡形もなく消え去っていたとしたら、これからどこへ向かえばいいのか、行き場はまだ見つかるのかと牧島は子供じみて問い返す。問う相手など今までもこの先もどこにもいないことだけが自分を鎮める力になる、それだけならいつだって分かっていたのにこの様(ざま)かと、一呼吸置いて、呆(あき)れたふうをする。 「おま... ...続きを見る

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2017/06/23 16:51
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第2回)  ひんやり澄んだ渓流の水面に現れた男が、「おまえはよく流れる」と言う。香芝のはずが岡原に見えた。「雪などひとひらも降っていないのに」と牧島は声に出しそうになる。「おまえにできるのは俺に届かない所を流れるだけだ。四十何年経っても何も生まなかったな」岡原が淡々と追い打ちをかけた。風の音だったらもっと風の行く手を追ったかもしれない。「香芝を知ったよ」と誰の口をついて出たのかといぶかる思いで、ひっそり声にした。香芝を知ったこと以上の出来事が四十何年間の中で見当たらないのは自然な気がする。 ... ...続きを見る

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2017/06/16 16:49
(中編小説) 陶酔する水流の歳月
(第1回)  よく流れる、おまえはよく流れる、という声が聞こえた。聞こえたことにした。水が流れていた。そんな声が聞こえる訳がないとあっさり片付けるより、声は耳元を通さず伝わってくることだってあるさと牧島(まきしま)は渓流に眼を向けた。流れの真ん中に近いほど濃緑色が青みを帯びていき、更に飛沫の白が溶け合っている。白く細やかな波頭が一斉に上流に向かうかのように見誤るが、位置は変わらない。  瀬音の中から、「おまえはよく流れる」と声が立つ。聞こえる訳がないだろう、とそのつど打ち消す声はどこから流れ... ...続きを見る

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2017/06/11 17:07
(短編小説) 記憶の吊橋
(短編小説) 記憶の吊橋 (その12) (最終回) 《無論、露原は生きているし、俺は必ず露原に会う。それがいつになるかは分からないが、必ずどこかで露原に出合い、露原のあの火照る最上の肌身を手中にする。何があっても、俺がおまえにきっと叶えさせてやる・・・》そう何度も自身に言い聞かせながら、埼宮は更に二度、三度ゆっくり吊橋を往復した。  小学生の時に渡ることができなかった分を取り戻す風な子供じみた思いも僅かながら過(よぎ)った。吊橋の上を歩く程、埼宮の裡は静まり、谷川の音が辺りを満たした。  踏ん切りをつけ、吊橋を見納... ...続きを見る

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2010/01/25 18:21
(短編小説) 記憶の吊橋
(短編小説) 記憶の吊橋 (その11) 「昨日も聞いたけど、今はどこに住んでいるの?」 「おまえの知らない所さ」 「せめて住んでいる街の名前ぐらい知りたいんだ。知ったからどうしようということではないんだ」 「知らない方がいい・・・」 「この吊橋を渡って、露原の声が聞こえてくるそっちの対岸の山の土をもう一度踏めば、いつか必ずどこかで露原に会えるような気が、今ふっとした・・・」 「おまえの浅はかな思い付きに過ぎないさ・・・。この吊橋は、おまえはさっき渡ったつもりかもしれないが、本当はおまえが小学生の時、二、三歩だ... ...続きを見る

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2010/01/18 17:57
(短編小説) 記憶の吊橋
(その10)  西側に当たる対岸の山並みの向こうに隠れ気味の陽が、吊橋から一歩離れた埼宮の顔に射した。埼宮はさき程実際に土を踏んだ対岸の山肌に、人影の動く気配を強引に採り集めた。 「露原、やはりそこにいたんだ・・・昨日は釜無川、今日は尾白川渓谷・・・多分会えると思っていた・・・」 「おまえが無理やり俺をここに誘(おび)き出したんだ。昨日と同じ見え透いた手口で・・・。何年経っても諦めが悪い奴だな。埼宮は・・・」 「会わないままに五年以上経つと、ひょっとするともう露原には一生会えないのではと... ...続きを見る

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2010/01/15 16:27
(短編小説) 記憶の吊橋
(短編小説) 記憶の吊橋 (その9)  埼宮にはいつの頃からか、例えば男たちと肌を重ね欲情を解き放つ場面で、垂直に果てしもなく落下していく感覚と、同時に、水平に先へ先へとどこまでも伸び広がっていく感覚が混じり合うように感じられた。これら二種の感覚の最も大きな源は、もしかすると、小学生時分のこの地の周囲の景観も含めた吊橋での体験にあるのではと、埼宮は今改めて思った。殊に男同士の絡みの極みで、真一文字に底なしに墜落する感覚が、より生々しく根深く感じられるのは、吊橋で味わった怖さや怯(おび)えに、それだけ実感が伴っていたから... ...続きを見る

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2010/01/11 16:34
(短編小説) 記憶の吊橋
(短編小説) 記憶の吊橋 (その8)  埼宮は一歩一歩ゆっくり歩いて橋を渡り切り、対岸の山の土を踏んだ。小学生の時に来たあの日には、やっと二、三歩踏み出しただけで足の竦(すく)んだ橋を渡り切り、眼に収めたきり記憶の中の暗がりで数十年を越えて鬱然と立ちはだかっていた対岸の山を今、直(じか)に足で踏んでいた。「甲斐駒黒戸口尾根登山道」「尾白川渓谷道」の二つの道標が立っていた。かなり急峻な山道の始まりに見えた。  埼宮は一旦橋を引き返し、小学生の時に立った辺りと同じ、岸から二、三歩の位置に佇んだ。記憶の中の吊橋はもっと長く... ...続きを見る

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2010/01/07 17:11
(短編小説) 記憶の吊橋
(短編小説) 記憶の吊橋 (その7)  タクシーを降りたかなり広めの駐車場から山道を歩き、10分とかからない場所に吊橋があった。ワイヤーロープや木の板、鉄板などを用い、頑丈に作られていた。それでも橋板の上に立つと少し揺れた。幅は1メートル程で、橋全体は黒褐色に見えた。下を尾白川が流れ、川底は薄ら青味を帯びている。川床には白っぽい大きめな石が多かった。  埼宮は周辺の景観も含め、記憶の中の吊橋は、まず間違いなくこれだろうと直感的に思った。ただし、これは何時間か後、帰りのタクシーの運転手の話で分かったのだが、埼宮よりやや... ...続きを見る

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2010/01/01 17:53
(短編小説) 記憶の吊橋
(その6)  あわよくばその男とどこか似通う男に、この釜無川のほとりにある温泉で出くわすことだって、満更有り得ないとは言えないのではと思いつつ、埼宮は武智鉱泉への坂を上った。三棟のどれも二階建ての小振りな建物から成っていた。が、無情にも、建物は閉ざされ、玄関口に本日休業の札が出ていた。臨時休業の札もあった。たまたまこの日が休みの曜日に当たったのか、それとも訪れる客が少ないなどの理由で、ここしばらく閉館が続いているのかは分からなかった。  人は誰も見当たらなかった。道路に近い棟が浴室のある建物... ...続きを見る

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2009/12/31 17:17
(短編小説) 記憶の吊橋
(その5)  川音が勢いを増した。風が下流に向って通り抜け、薄の原がひとしきりざわめいた。埼宮はもう一度川に手を浸してから土手を上がり、車に戻った。  再び釜無川に沿って下った。視野がやや広がり、向こうに集落の見える辺りまで来て、左手の小高い所に建っている武智(たけち)鉱泉と記された建物の近くで埼宮は車を降りた。さっきここを通った時に、ああここなのかと思いながら走り抜けた場所だった。名はずっと以前から知っていたが、実際に立ち寄るのは初めてだった。時間的にもまだ余裕があったので、しばらく温泉に... ...続きを見る

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2009/12/21 16:13
(短編小説) 記憶の吊橋
(その4) 「何年も会えなかったのに、こんな所で露原と会えるなんて・・・」埼宮は男の見開かれた眼に直(じか)に言葉を発した。 「おまえこそどうして今、この渓谷に来ているんだ。おまえは確か、埼宮・・・」 川音に流されることなく、男の声が届いた。 「名前を覚えていてくれたのか。東京でも横浜でもどこへ行っても会えなかったのに、思いも寄らぬ所で・・・最後に会ってからもう五年以上経つ・・・」 「そんなに経つか。俺のことなどさっさと忘れてしまえばよかったんだ・・・」 露原の声が低まり、川音に紛れ... ...続きを見る

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2009/12/18 17:12
(短編小説) 記憶の吊橋
(その3)  だいぶ戻り、再び舗装路になり、少し走らせた辺りで、埼宮は車を降りた。車を停めるのには好都合なかなり広い平坦な場所だった。埼宮は土手を降り川原に立った。さほど水量は多くはなかったが、水は澄み切っていた。手を浸(ひた)すと、予測した通り冷たかった。  子供の頃、もう少し下流だったが、二、三度泳いだことも含め、釜無川の水の冷たさは体験的に知っていた。ただ、当時知っていたのは、殆ど夏のこの川だった。本当の水温は逆だろうが、秋の深まったこの季節の水より、埼宮の記憶の中の夏の水の方が一段と... ...続きを見る

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2009/12/17 16:23
(短編小説) 記憶の吊橋
(その2)  普段、むしろ時に臆病なくらい慎重でいながら、時折、自分をふっと投げ出してしまうような行動に走ったりする気質が、幼い自分からそうした行為に既に現われていたと、今、埼宮は改めて感じる。ぐらつく足場のはるか下方に穿(うが)たれた、吸い込まれそうな谷川と、両岸、特に向こう岸に立ちはだかるしんと静まった暗緑色の山肌。その光景が埼宮の裡(うち)に数十年間ほぼ同じ姿と色合いを保ったまま、消えることなく仕舞われてきた。  その吊橋は今訪れている釜無渓谷のどこかに架かっているとばかり、埼宮は思い... ...続きを見る

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2009/12/14 16:31
(短編小説) 記憶の吊橋
(その1)  釜無(かまなし)渓谷の奥へと道は通じていた。釜無川に沿う道は、途中から舗装が切れ、凸凹(でこぼこ)し波を打つ土や石ころが剥き出しになっている。埼宮(さきみや)はレンタカーの速度を一層落とした。右手の山並みは、採石のためか、山肌を何箇所も削り取られていた。左手の川原(かわら)にも、砂を採取されている場所が少なくなかった。工事用や土砂を運搬する大型のトラックが頻繁に通る。所々、川原側に道が広めになっていて、トラックとすれ違ったり、やり過ごすのに役立った。乗用車は殆ど見かけなかった。 ... ...続きを見る

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2009/12/11 16:41
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その17)(最終回)  入笠山(にゅうかさやま)の入り日を思い起こし、それに重ねながら、山越え阿弥陀の姿と円光を心の裡(うち)で観想し、その光をあふれさせ、更にその光をどこまでも純化し切った果てで、その向こうから生身の芝岡かふっと現れる・・・。芝岡を想い限りもなく想い続けた極みで、当の芝岡に到達する…。芝岡を想う仕方は色々あるだろうが、入笠山の入り日を仲立ちにするのが少年時代を含め私の全部を注ぐことできる点でも、一番自然で素直だと思われた。  そんなやり方で想うのが、芝岡に出合う唯一の方法... ...続きを見る

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2009/08/24 16:43
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その16)  武弘(たけひろ)との交わりが断たれてから一ヵ月位過ぎた四月下旬の土曜日、上野の国立博物館で行われた日本国宝展で、「山越阿弥陀図」(鎌倉時代・十三世紀・京都・禅林寺蔵)を見た。画集では何度となく眼にしていた作品だった。同じこの実物の作品を、遥か以前、どこかで眼にしたことがあるような気もしたが、別の「山越(やまごえ)阿弥陀図」だったかもしれない。  ゆるやかな山の稜線の向こうから、元は金色だっただろうが、薄茶色に褪せて見える阿弥陀の上半身が大きく現れている。阿弥陀の背後には円光。... ...続きを見る

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2009/08/16 16:26
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その15)  武弘(たけひろ)との三月半程の関わりが、武弘からの電話がぷつりと来なくなったことで、あっけなく断ち切られた。私の側から連絡を取る手立てはなかった。Nサウナにはこれまでと同じように、主に土曜日、週に一度位の割で足を運んだが、武弘の姿はなかった。  交わりが断たれた今となると、武弘とはいったい何者だったのか、どこから来てどこへ去っていったのか、改めて考えざるを得ない破目になった。  確かに武弘は一から十までこの現実の世の存在でありながら、やはり、私の見えない一角から現われて、私... ...続きを見る

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2009/08/14 15:43
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その14)  やがて、今日はこの後、所属しているテニスクラブの忘年会があるということで、彼は私より先に帰った。別れる前に、次の週の日曜日にこのサウナで会う約束をし、私の電話番号を伝えた。彼は実家で家族と同居しているので電話は教えられない、又、携帯電話も持っていないとのことだった。  約束した日曜日の夕刻、Nサウナの個室を借りた。さほど広くはないが、新しくこざっぱりとし、一応の設備が整っていた。片側の側面には大きな鏡が嵌(は)め込まれていた。前回、大部屋で交わった時に比べ、他の男たちの視線に... ...続きを見る

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2009/08/09 17:40
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その13)  その夜は、更に二度三度と手を出しては拒まれることを繰り返した。さすがに、これ以上しつこくしたら罵倒されるかと恐れつつ、最後にもう一回だけと思い、廊下の壁を背にして立っていると、彼が私の前を通り大部屋の中に入った。直ぐ続き、立ち止った彼の腰の辺りに手を伸ばした。意外にも彼は私の手を退けず、そのままにさせた。二段式になった上段の蒲団の上に仕草と囁き声で誘うと、彼は応じて、はしごを上がり仰向けに横たわった。  事態の急な推移に思考も躯も直ぐにはついていけず、茫と半ば夢を見る思いの中... ...続きを見る

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2009/08/07 16:45
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その12)  11月下旬のやはり土曜日の夕刻だった。武弘(たけひろ)の姿を見た。明かりの抑えられた大部屋で手を出したが拒まれた。やはり私は相手にされないのかと気分が沈んだ。 ややあって、彼が三階のロッカー室にある自動販売機の近くに立っているのを眼にした。彼の二の腕の辺りにそっと触れた。特にうるさがる風でもなく、私の方に和らいだ感じの眼を向けてくれた。  それから少し経ち、彼がロッカーの前で着替えている姿を眼にした。「もう帰るんですか」を皮切りに幾つか話しかけたが、彼はわずらわしがる風... ...続きを見る

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2009/08/06 16:07
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その11)  惹かれる深さでは銭湯の男や芝岡に及ばなかったが、顔も含め全身から放たれる生々しい精気も加わり、私が最も好ましく思う型に属しているのは間違いなかった。何か格技をやっている風に見えた。若々しかった。見るからに筋肉に張りとばねがありそうだった。  後で教えられたが、高校時代に陸上競技、今は大学のテニスサークルに入っているということだった。仮に私が話しかけたとしても、とても相手にはされず、うかつに手など出したら荒々しく振り払われ、下手(へた)をすると罵倒されかねないある種の覇気があっ... ...続きを見る

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2009/08/02 14:56
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その10)  武弘(たけひろ)は23歳で大学三年生だと言った。やや小柄で上半身下半身ともに筋肉質でよく締まっていた。殊(こと)に胸部が厚く堅かった。時間が取れる時はジムに週に何度か通い、躯を鍛えているということだった。  立っている時はさほど目立たないが、特に四つ這いで突き上げた時の尻の形は、銭湯の男や芝岡のそれを思わせて四角ぽく張りがあって好ましかった。しかも尻の穴がぴちっと滑らかに窄(すぼ)まり、中の肉も奇麗だった。これほど奇麗な尻の穴を眼にしたのは、武弘が始めてな気がする。  銭湯... ...続きを見る

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2009/07/26 15:47
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その9)  西原武弘(たけひろ)の尻の窪みの芯に、窓ガラス越しの日の光が当たっている。武弘はさっき私の眼の前で、うつ伏せていた姿勢から両膝を立て、尻を突き出した。私は両手で武弘の尻の芯を開け、窄(すぼ)まった肉のしっとりとぬめる軟らかい壁をひとしきり舌で舐め上げた。  「カーテンを少し開けてもいい?」と武弘に聞いた。「少しだけだよ」と武弘が答えたのを受けて、やや厚手のものとレースの二枚のカーテンを50センチほど開けたのだった。  冬の余り熱を持たない澄んだ日が、武弘の尻の中の窄まった奥ま... ...続きを見る

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2009/07/23 16:45
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その8)  繰り返しになるが、銭湯の男がそうであったように、芝岡も私の手の到底届かない浄化された霊と官能の光に包まれながら、生と死の両方から同じ遠さで隔てられた領土で生きている…。それだけでなく、銭湯の男と芝岡への思いに耽る時、遥か遠くを光源とするその同じ光が私にも射しているのではないか…。そんな思いが私を捕らえた。  その光が私にも射しているということは、私自身、生身(なまみ)でこの此岸(しがん)の世に生きているつもりが、実は彼等と同様、生死の両方から同じ遠さにある別の領土の存在なのでは... ...続きを見る

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2009/07/20 15:10
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その7)  二年四ヵ月程、芝岡の肌身を乾されている今、自分の躯のどこにも、芝岡の腰にしろ尻や陽根にしろ、生(なま)の感触が残されているとは思えなかった。  時折、交わった数多くの他の男たちのものとは違う、確かに芝岡のものだと思われる感触が、芝岡の映像に触発される恰好が呼び覚まされるのを覚えたりするものの、それにしたって、現実には全く触れていない銭湯の男の肌身と思(おぼ)しい感触が、錯覚には違いないにしても手や舌に走るのをふっと覚えるのと、さして違いはないのではと思えてくるのだった。  直(... ...続きを見る

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2009/07/17 23:47
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その6)  銭湯の男は、あの時の三十代半ば位のまま、一歳も年を取ることなく、どことも知れぬその遠い世界で生きている…。というより、むしろその世界から、四十年程以前、郷里の銭湯にいた私の眼の前に、束の間仮現(けげん)し、たちまちにしてその世界に帰ってしまったのではないか…。輪をかけて埒(らち)もないと言われれば、一言(いちごん)も返しようもないそんな思いに頻(しき)りに囚(とら)われる。  かと言って、あの銭湯の男は、雲をつかむようなおぼつかない存在では決してなく、私が脳裡にあの時の裸身を出... ...続きを見る

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2009/07/16 16:16
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その5)  銭湯の男とはたった一度の出合いだけで、無論、躯の関わりを持つことなどあり得る訳もなかった。それに対し芝岡とは、初めて会った日はどうだったか確かな覚えはないものの、これまでの年月の中で、その時々での交わりの濃淡の違いは別にして、少なくとも、五、六回は肌を重ねた。  郷里の銭湯で男の裸に射していたのは、自然の外光と室内の電球の明かりが混ざりあった光だったと思う。一方、夜だったこともあり、芝岡の裸に射していたのは、蛍光灯の光だけだった。その人工の照明だけを受けた芝岡の肌身から、浴室内... ...続きを見る

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2009/07/13 15:22
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その4)  あの日、銭湯で出合った男の肌の内側から放たれていた、しっとりと潤った渋く光沢のある光は、元々、男の裸身の自前の光でありながら、私の後年の絵画や読書の経験からもたらされた光が付け加わり、最も高度に純化された官能の光となって、私の中に、都合四十年近い歳月仕舞われてきたのだ。  郷里の銭湯での体験から、恐らく優に二十年は経った頃、今からでも同じ二十年程以前のことになると思う。都内のターミナル駅に近いとあるサウナで一人の男と出合った。後(のち)に芝岡という姓を告げてくれたが、本名だった... ...続きを見る

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2009/07/03 16:03
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その3)  大学への入学を機に離れるまで過ごした私の郷里は、東側に八ヶ岳の峰々が聳(そび)え、西側に入笠山(にゅうかさやま)を始めとする山々が連なる山あいの町だった。八ヶ岳の切れの鋭い稜線と対照的に、西方の山並みはさほど起伏がなく、海抜も低めで、全体に穏やかな山容だった。  夕陽は、山頂の部分に樹木がなく裸になった入笠山の近くに沈んだ記憶がある。小さくなった橙(だいだい)色の太陽が、少しずつ色合いを失いながら、穏やかな稜線の向こうに消えていく映像が、相応に色褪せてはいるものの、今も私の裡(... ...続きを見る

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2009/07/02 15:53
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
(その2)  私の眼が男の裸を独り占めした。躯(からだ)じゅうどこをとっても筋肉が弾くように引き締まり、全身が肌の内側からしっとりと渋い光沢を放っていた。普段、男が従事している仕事も、このような躯を作り上げるのに与(あず)かっていたかもしれない。  こういう男の顔と躯、筋肉と肌が、同じ性を持った男の私を、この世のありとあるものの中で、どうごまかしようもなく、最も深く激しく惹き付けるのだ・・・。これと同質のもの、これと近いものをひたすら追い求めること、それが私の生涯をかけた行いになるだろう・・... ...続きを見る

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2009/06/29 17:00
(短編小説) 金色(きんいろ)の光の道
 2000年8月に書き上げた作品です。 私にとっては、殊(こと)のほか愛着の強い作品です。前回載せた「灰赤色の建物のある道」とタイトルが似ているので、変えようかなとも思いましたが(笑)、そのままにしました。中味の字句も、当時のままを生かそうと考え、振り仮名を多めにした点などを除くと、変えないことにしました。  硬(かた)い表現で読みにくいところがあるかもしれませんが、悪しからず、どうぞお付き合いください。 ...続きを見る

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2009/06/28 17:16
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その9) (最終回)  水岡は城址公園の前に立っていた。 傾きかけた陽が、公園の中の木々や石垣、白っぽく見えるさほど高くない建物に射していた。何時間か前、男が城址公園に行く道を教えてくれた時点で、水岡がその道を辿(たど)って行けば、ほぼ到着すると思われる頃合いだった。 水岡は公園の入口近くに置かれた木のベンチに腰を下ろした。ズボンの左のポケットに手を入れると、やわらかい布地めいたものに触った。取り出すと、白い六尺褌だった。あの部屋で男にねだって手に入れた当の褌のようにも、この日、自... ...続きを見る

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2008/12/12 16:33
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その8)  男は部屋の奥の窓に近い辺りに置かれた、肘(ひじ)掛けのある見るからに堅固な造りの木の椅子に、褌姿のまま腰を下ろした。水岡は、すぐさま男の前で両膝を付くと、両手を感触の残る男の両の尻たぶに回し、口を褌の前袋に押し当てた。男と水岡のこれらの振る舞いのすべては、街で男の後を追い始めた時点で、すでに決められていたという感慨が水岡を捉えた。無論、何の根拠もなかったが。  水岡は男の下腹部を独り占めしていた六尺褌をていねいに外し、鼻に押し当て存分に匂いを吸い取ると、椅子の脇に置いた。 「... ...続きを見る

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2008/12/11 17:50
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その7)  一人、また一人と歩行者とすれ違ったが、彼らの視線が殊更向けられることはなかった。男が歩調をやや速めた。水岡は速さを合わせながら、左手をまだ触ってない男の左の尻たぶに置き、しかもゆっくり撫で回した。さすがに払い除けられるかと危ぶんだが、男はやはり取り立てて気に留める風はなかった。水岡の左の手のひらが這うことで、男の総身の輪郭が、濃くくきやかに象(かたど)られて見えた。  道が大きく二股に分かれる地点に差し掛かった。すでに水岡の手は男から離れていた。左に入る道の直ぐ左手に建つ、灰赤... ...続きを見る

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2008/12/07 16:45
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その6) 「そうだったんですか…昔、どこかで一度顔を見たことがあるかな、それとも記憶違いかな、そんなことも考えながら後を追ってきたんです」 「この街に来てから、まだそんなに長くはないんだろう?」 「住み始めてからはまだ余り経っていないんですが、だいぶ以前、時折来たことがあるんです」 「それなら、前に一度位見たことがあってもおかしくはないさ。俺はもう長く住んでいるから」 水岡は男がさっきまでとは違い、気軽に言葉を遣り取りしてくれることに安堵と喜びを覚えたものの、いきなり、「もう行けよ」... ...続きを見る

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2008/12/04 16:32
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その5)  程なく、二人はその場所に着いた。水岡は立ち止まり、右手に延びる道に眼をやった。鬱蒼としているという程ではなかったが、木々や草むらに遮(さえぎ)られ、道の奥までは見通せなかった。 男は厄介払いをしたという風ではなかったが、水岡を構う素振りもなく、無言で今までの道を歩いて行った。水岡は僅かの間佇(たたず)んでいたが、視線を転じると、直ちに男の後を追った。 「城址公園は別の機会にします」 どうしても取って付けた感は免れなかったが、水岡は男に追いつきざま、さっきの男の口調を意識... ...続きを見る

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2008/12/01 16:46
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その4) 「祭りがあったのですか」 水岡はさっきより近い距離で、しかも一語一語ていねいに声にした。男の視線が少し上に向けられた以外は何の変化もなかった。手を伸ばせば、男の肌に触れられる距離だった。中でも、厚く締まった男の両の尻たぶが水岡をそそりにそそった。今この尻の面(おもて)に手のひらを押し当てられるなら、自身に関わる一切合財と引き換えてもいい、と水岡は思った。それこそ、石であれ水であれ木であれ何に変えられても構わなかった。身の裡が束の間冷え冷えと静まった。  水岡は男と並んだ。今度は... ...続きを見る

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2008/11/30 16:02
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その3)  水岡の足が更に速まった。背後から近づく足音が、男の耳に届いているかもしれなかった。が、男の歩く姿に何の変化もなくごく自然だった。これほど申し分のない躯体(くたい)を持っていたら、他に欲しいものなど何もないだろうな、俺のように辺りに物欲しげな眼を向ける必要などないだろうな、と水岡はすんなり納得できた。  もう殊更(ことさら)大きな声でなくても男に届きそうだった。薄い陽の光が、左斜めから、男の肩口に射した。怯(おび)えが手の付けられないほど水岡の四肢を侵蝕していながら、一方で、妙に... ...続きを見る

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2008/11/27 16:06
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その2)  水岡は更に歩を速めた。男との距離はさほど縮まったようには見えなかった。一人、又、間(ま)を置いて一人、と水岡の傍らを歩行者が通り抜けた。彼らは水岡の姿も前を行く男の姿もまったく眼に入らないかのように、ひっそりと去って行った。  焦(あせ)りが水岡の裡(うち)でざわざわ不穏な物音を立てた。取り返しのつかない事態が背後から襲いかかって来そうだった。今ここでこの男と繋(つな)がりを持てなかったら、これ程惹きつけられるこの男とは無縁な生涯を、俺は間違いなく送ることになるだろう。己(おの... ...続きを見る

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2008/11/23 16:33
(短編小説) 灰赤色(はいあかいろ)の建物のある道
(その1)  磨(みが)かれたような色白な肌に、深い艶と内側から弾(はじ)くような張りがあって、しかも筋肉が厚めに締まった男の後を、水岡は追っていた。人通りの少ない街中の道だった。  男が身に着けていたのは、白い六尺褌だけだった。男の裸身は、周囲の景物としっとり馴染んでいた。水岡には、自身がしばらく前にかなり大きな建物から外に出た記憶が薄っすら残っていた。だから、見知った街の通りを歩いていると思うのが一番受け入れやすかった。ただ、その記憶がたいして当てにならないのも一方で分かっていた。  ... ...続きを見る

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2008/11/21 16:30
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その17)(最終回)  高桐は立ち上がり、ここ何年間、特別な事情がない限り土曜日にはまず欠かさず通っている、歩いて10分程のNサウナに向かった。  道々、あの少年ぽい清涼感のある男も含め、以前からひたすら欲しいと思う数人の男たちの映像が浮かんだ。今日こそ、少なくとも彼らのうちの一人と出会い、しかも高桐が手を出せば、渋々とであれ相手も受け入れてくれるのではと、まず叶ったことのない思惑が続いた。  それとは又別に、まるきり初めて見る諸(もろ)に好みの男が待っていて、誘えば案外すんなり肌身を合... ...続きを見る

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2008/03/09 16:04
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その16)  それから二ヵ月程経った、8月半ばの土曜日だった。高桐は上野の国立博物館で「遣唐使と唐の美術」展を見てから、ビールを飲み食事をした。その後、上野駅の両側の出口をつなぐ広い橋の片隅に腰を下ろした。取り留めのない思いが高桐の裡(うち)を占めた。  これまでの生涯を振り返ると、好みの中の好みの、なんとしても手中にしたいと感じた男の大半からは、すげなくにしろ淡々とにしろ、断られ拒まれるのが常だった。更に又、三十年程前のあの赤羽の男や今の住まいに近いスーパーマーケットで見た男のように、何... ...続きを見る

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2008/03/06 16:36
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その15) 相手の男は高桐が彼の体に触るのを拒もうとして、彼の体の向きを変えようとしたり、彼の尻を高桐から防ぐような仕草を何度かしたが、ことさら邪険に振り払うという程ではなかった。  彼らはじっと抱き合っては、ごく小声で言葉を交わしたりしていたものの、尺八をしたり、尻を掘ったりなどの明らかな形の交合は何故かしなかった。はっきりは見えなかったが、彼が相手の陽根を時折扱(しご)く程度だった。 二人はこの夜初めて肌を合わせたのか、それとももっと前から何度か交わっているのかも分からなかった。... ...続きを見る

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2008/03/03 16:47
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その14)  長浦港に行く数日前の、5月最後の土曜日、同じこのサウナで会った時、彼が大部屋の上段のベッドで、明かりが暗くされているために顔はよく分からなかったが、同じ年頃らしい男と絡み合っている最中、何度かそっと手を出すことができた。尻、太股、脛(すね)や足の裏などに、手だけでなく口も押し当てることができた。 こんなに何回も触ることができたのは、彼と出会って以来初めてだった。彼が他の男と交わっている場面を眼にしたのも初めてだった。  彼は背後から手を出すのが高桐だと分かっていたと思う。... ...続きを見る

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2008/02/29 16:04
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その13)  道々、働いている男たちの姿は何人か眼に入った。しかし、佃島に行った時と同様、漁師の血を引き海や土の匂いのする高桐好みの、質朴で色っぽさのある男は一人もいなかった。まだ何時間も経っていない筈だが、先程、高桐の方から声をかけ、老人と言葉を交わしたが、あんな風に自然な形で好ましい男と知り合えたら申し分なかったが。  あの老人の年齢は分からなかったが、例えば70代であっても、始めから好みの対象から外れるという訳ではなかった。ただ、残念ながら高桐が惹かれる型の顔ではなかった。老人の側も... ...続きを見る

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2008/02/25 16:06
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その12)  気温が高めの中で、海風は快かった。岸壁近くに腰を下ろし休んでいた相当な高齢だと見受けられる男性に聞くと、この辺りは第二次大戦中は海軍の資材置き場になっていたとのことだった。  それよりもっと以前は、半農半漁の土地だったという。高桐が見たいと望んだ光景は、その当時なら眼前に広がっていただろう。  老人はこのごく近辺の生まれだと言った。この湾に関わる風物の移り変わりは総て見知っているのだ。改めて高桐が問うと、この周辺の海には自然のままの海岸線は残っていないと言った。 ...続きを見る

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2008/02/22 16:02
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その11)  今、佃島に居住する老若の男たちや女たち、更に佃島を訪れている人々の中に、好みの男を求めて通りをうろついている高桐のような男がいるかもしれないなどと思いを巡らす者は、誰一人としていないに違いない・・・。  佃島を歩いている己の有り様(よう)が、ほかの土地にいる時以上に、やや大仰な感懐ながらこの世に何のつながりも居場所も持たない面妖な幻めいたものに感じられるのだった。それでいてその感懐がとろりと和(なご)んでいるために、佃島にいること自体、高桐自身少しも居心地が悪くなかった。 ... ...続きを見る

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2008/02/18 16:53
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その10)  高桐が佃島という土地に惹かれていたのは、江戸時代以来の漁師の血を引く、男くさく、潮の匂いのする質朴な男にひょっとすると出会えるかもしれないという密やかな思い入れがあったからだった。東京湾に注ぐ隅田川の河口にあって、埋め立てで出来上がった島というのが、高桐の乏しい知識からなる佃島の映像(イメージ)だった。佃煮の発祥地であることも含め。 ...続きを見る

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2008/02/15 16:41
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その9)  男が高桐の誘いを受け入れ、高桐の住まいを訪れ、部屋で二人で向かい合う光景が高桐を陶然とさせた。そうなれば後は俺の思うがまま、やりたい放題、あの眼の眩みそうな最上質の裸を独り占めできる・・・。  ただ、そんな独り善がりの空想に浸(ひた)れば浸るだけ、現実との間に距離が広がるだけなのか。それともたとえ独り善がりにしろ、濃く激しく望むことが、現実を願望の側に少しでも近づけることになるのか。いずれにしろ、己の願望を正面から受け入れ、その対象になった相手に率直に臆せず働きかけるしかないの... ...続きを見る

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2008/02/13 17:02
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その8)  怒気を含んではいないが、ややうるさげに、「えっ、そうだよ、何で」とか、「そうでもないよ」などの声が素っ気なく返され、それ以上は取り付く島もなく、さっさと高桐から離れていきそうな気もする。そうなったら最後、恐らく二度とあの男と関わることはできなくなるだろう。  それとも「今日は一人ですか」に対し、高桐を真っ直ぐ見返し、「えっ、そうだよ。どこかで会った?」と応じてくれるだろうか。「ここで会うのは今日で三度目です。この前はご家族と一緒でしたね」と返せば、彼との言葉の遣り取りは割に滑ら... ...続きを見る

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2008/02/10 16:08
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その7)  彼の風貌なら、高桐に限らず、欲望を煽(あお)り立てられる男たちも決して少なくはないだろう。仕事での関わりその他、周囲の男たちから陰に陽に誘われ、切願され、挙句、体の関係を持つことがあっても少しも不思議ではなかった。男同士でなければ得られない快楽の領域に、彼の中の何割かがじわじわ踏み入りつつあったと想定しても、荒唐無稽(こうとうむけい)だとは高桐は思わなかった。 ...続きを見る

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2008/02/04 16:17
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その6)  高桐は殊更髭を伸ばしている男に惹かれるということはなく、むしろ、どちらかといえば髭のない男の方が好ましさを覚えることが多かった。ただ、三十年前の赤羽の男もそうだったが、特にこの男には口元の短めの髭がよく似合い、きりりと男っぽくしかも愛嬌のある風貌を引き立てていた。  一家が買い物を終えようとしている場面は高桐の記憶に残っているものの、それから先の光景は消えていた。家族と一緒にいる男の後を追っても仕方がないと考え、程々の時点で眼で追い続けるのを打ち切ったのかもしれない。 ...続きを見る

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2008/02/03 16:16
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その5)  人は度外れて激しく惹きつけられる相手と、人生のある時期、ほんの束の間交差するだけで、それ以外のほとんど総ての時間は、互いにまるで無縁のまま日々を過ごすことになるのだ。無論、あの男の側からすれば、高桐という見も知らぬ男の記憶の中に、己(おのれ)の存在が生涯強く濃く焼き付いているなどとは知りようもないのだ。 ...続きを見る

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2008/01/31 17:01
(短編小説) 記憶を彫る肌身
(その4)  そんな骨身にこたえる苦(にが)さを味わった更に一年位前、高桐が横浜に住んでいた頃、最寄の駅近くにあった銭湯で見た壮年の男に惹かれ、男より早く出て、銭湯の玄関口で男が出てくるのを待ち、思い切って話しかけたことがあった。 「気安く話しかけるんじゃねぇよ」 男は怒気を含んだ表情と口調で、高桐に荒々しく言葉を投げ返した。 「すみませんでした・・・」と、高桐は悄然(しょうぜん)と答えるしかなかった。    その時の体験が頭に残っていて、一年後の赤羽駅に近い路上で、怖じ気を振り払う... ...続きを見る

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2008/01/24 16:11
(短編小説) 記憶を彫る肌身
 (その3)  高桐は、この日までに頭の中で何度も繰り返した言葉を喉元で待機させていたものの、結局、男に一言(ひとこと)も声をかけられなかった。刻々募る気後れや動悸を乗り越える力がなかったのだろう。現に生身(なまみ)の彼の姿を前にすると、その彼に誘いの言葉を口に出し、彼と何らかのつながりを持つという事態が、現実には到底起こり得ない白昼夢めいたものとしてしか考えられなかった。  高桐のいる空間と男のいる空間は、僅かな距離を挟んだだけで地続きであるにもかかわらず、両者は見かけは似ているものの本当... ...続きを見る

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2008/01/21 16:47
 (短編小説) 記憶を彫る肌身
 (その2) 中背で、衣服の上からも、骨太で腰が据わり、締まった切れのいい厚めの肉が全身に行き渡っている様が見て取れた。  通りを歩いていて最初に眼に入れた時は、絵に描いたように俺の好みに寸分たがわず当てはまる男が、現にこうして自分の住まいの近くにいたんだ、世の中にはこういうこともあるんだという風な感慨に浸(ひた)された。その後で、道路の補修工事を担当しているからには、周囲の様子からまだ暫らくはこの工事は続くようだから、いずれ又この辺りの場所で彼を見かけることができるのではと期待したに違... ...続きを見る

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2008/01/20 16:23
(短編小説) 記憶を彫る肌身
 久し振りの更新です。2008年の最初は、2006年6月に書き終えた、短編小説を載せることにしました。一旦書き上げたものを、半分近く短くしたために、作中の日付が少し古くなっています。私なりに愛着のある作品です。  お読みいただいて、感想など寄せていただけたら、うれしいところです。  遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。 (その1) もう三十年程も昔のことになるが、高桐(たかぎり)は東京の赤羽に、一年に満たなかったが住んだことがあった。二十代の終わりの頃だった。その時期に眼に... ...続きを見る

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2008/01/18 17:16
 (短編小説) 果肉の中の波の声
第39回 (その23) (最終回)  沢崎が焦がれているあの男と二人だけで飲食のできる、連れの男に対する妬(ねた)ましさに飲まれそうになったものの、今更そんなことで俺は苦境に陥りはしないさ、と自身を茶化した。 ...続きを見る

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2007/11/11 16:16
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第38回 (その22)  ビールをグラスにもう一杯飲んだ。そろそろ切り上げなければならない時間だった。久し振りに自分と穏やかに語り合えた。なかなかいい店だった。沢崎は腰を上げた。 ...続きを見る

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2007/11/09 17:18
 (短編小説)  果肉の中の波の声
 第37回 (その21) 沢崎は更にじっくりビールを飲んだ。ビールがあれば、例えばあの男からこの先もっと手酷(ひど)くあしらわれても、やっていけそうに思えて、可笑(おか)しかった。あの男から邪険に扱われた分、それを補って何倍も余る位、他の男で取り戻せばいいんだ。 ...続きを見る

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2007/11/04 15:51
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第36回 (その20)  F駅に着いた。4時過ぎだった。表示を見ると、一時間位で特急電車が止まる。ちょうど好都合だった。駅に着く前にも眼にしたが、駅前の通りに面し、かなり大きな構えの食堂があった。この町を訪れた記念も含め、ゆっくりビールを飲みながら、できればこの地で獲れた魚介などを食べよう。 ...続きを見る

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2007/11/02 15:39
(短編小説) 果肉の中の波の声
 第35回 (その19)  「F駅へ行くにはどう行ったらいいですか」と沢崎が聞いたとする。「そこの角を右に入って、最初の信号を左に曲がり・・・」と彼が答えてくれるだろう。沢崎の顔つきや語調から、通りがかりの高齢の男がなぜか自分に好感を持ってくれていることが彼に伝わり、彼も表情を和らげて言葉を返してくれる。 ...続きを見る

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2007/10/29 15:23
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第34回  (その18)  今、現に海岸に沿った道を歩いていると、その思念は、「しつこいな」「うるせぇ」という声音とも絡み合い、一段と否定的な、ほんの僅かな望みさえ情け容赦なく吹き飛ばす荒くれた響きを伴なって、沢崎を襲った。ふっと、あの男も沢崎自身も、現実の生身(なまみ)というより実は幻なのだ、という声が波音の間を縫ってどこからともなく伝わってきた。 ...続きを見る

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2007/10/28 15:49
(短編小説)  果肉の中の波の声
 第33回 (その17)  少し先で大きな崖が迫り、視界が狭まっていた。この辺が引き返し所だった。やはり海が見える方がいいと、沢崎は同じ道を戻った。例の木の建物に行き着く手前辺りで、海から逸れF駅の方に向かおう、と沢崎は考えた。 ...続きを見る

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2007/10/25 16:38
(短編小説) 果肉の中の波の声
 第32回  (その16)  沢崎は、男の両足を自分の両の肩に乗せ、再び男の陽根を深々と頬張る。男が、自分の尻の芯がもたらした快美を知ったことで、陽根の旨さにこくが加わっている。男から流れ出る声にも厚みが生じているのが分かる。 ...続きを見る

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2007/10/24 15:38
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第31回 (その15)  沢崎の両の手のひらが、男の現にこりこり動く両の尻たぶをぴたり挟みながら、口全体は一層細やかな練達した動きを強める。男が零(こぼ)す声が波音と溶け合い、沢崎は男と自分の二体が、海面で揺れる繋(つな)がった二艘の船のように感じる。 ...続きを見る

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2007/10/18 01:39
 (短編小説) (果肉の中の波の声)
 第30回  (その14)  戸は開いている。沢崎はそっと中を覗く。予想したのとはやや異なるものの、沢崎好みの、短髪で40前後に見える幾分小柄な男が一人、腰を下ろし、煙草を吸っている。衣服の上からも、こりこりと筋肉の締まった様が見て取れる。 「こんにちは・・・入ってもいいですか」と沢崎が言う。男が小さく頷(うなず)く。 ...続きを見る

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2007/10/15 15:50
(短編小説) 果肉の中の波の声
 第29回 (その13)  こいつは我慢ならないことばかりの高齢の男だけれど、もう何年もの間、俺からこんなに邪険にされても懲(こ)りずに手を出してくるし、なんだかんだと話しかけてくる。俺の顔と軀;に心底惚れきっていることだけは確かなんだろう。 ...続きを見る

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2007/10/14 16:53
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第28回  (その12)  それから一、二年経った頃だったか。男が沢崎への嫌悪を更に露わにした時があった。同じサウナでのことだった。スティームサウナに入ろうとする男の腰の辺りに、沢崎が手を出した。 「うるせぇ」 周囲の男たちへの配慮もあってか、抑えてはいるものの憎悪と憤りの極まった風な声を投げつけた。 ...続きを見る

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2007/10/11 16:35
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 (第27回)  (その11)  これまでに、数え切れない数の男たちと交合している筈なのに、どうしてあんな初心者のような、一本調子で余裕のないやり方をしてしまったのかと、沢崎自身解(げ)せない思いがした。もっと様々な方法を駆使して、彼を丸ごと底深い快美に漬からせることができたら、その後の彼との展開も違ったものになったかもしれないのに・・・。 ...続きを見る

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2007/10/08 14:41
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第26回  (その10) ...続きを見る

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2007/10/05 16:57
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第24回  (その9) ...続きを見る

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2007/10/04 17:13
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第23回 (その8) ...続きを見る

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2007/10/01 16:23
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第22回  (その7) ...続きを見る

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2007/09/30 15:40
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第21回  (その6) ...続きを見る

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2007/09/28 15:29
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第20回  (その5) ...続きを見る

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2007/09/27 16:11
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第19回  (その4) ...続きを見る

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2007/09/24 17:10
 (短編小説) 果肉の中の波の声
第18回  (その3) ...続きを見る

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2007/09/23 16:16
 (短編小説) 果肉の中の波の声
 第17回  (その2)     ...続きを見る

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2007/09/21 16:27
(短編小説) 果肉の中の波の声
第16回  「三島由紀夫の内的風景  「荒野」からの声」を書き終えてから、三週間以上空白ができました。写真家円谷順一(えんや・じゅんいち)(通称 大阪のおっちゃん)について書くには、やはりまだまだ準備不足です。  私がこれまでに書いた小説の中で、一番新しい作品(今日 2007.9.20に書き終えたところです)を載せたいと思います。400字原稿用紙に換算すると、33枚ほどの短編です。少しずつ載せていく予定ですので、気軽にお読みいただけたらと思います。感想など寄せていただけたらうれしいな。 ... ...続きを見る

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2007/09/20 16:15

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