(短編小説) 記憶を彫る肌身

 久し振りの更新です。2008年の最初は、2006年6月に書き終えた、短編小説を載せることにしました。一旦書き上げたものを、半分近く短くしたために、作中の日付が少し古くなっています。私なりに愛着のある作品です。
 お読みいただいて、感想など寄せていただけたら、うれしいところです。
 遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。
(その1)
もう三十年程も昔のことになるが、高桐(たかぎり)は東京の赤羽に、一年に満たなかったが住んだことがあった。二十代の終わりの頃だった。その時期に眼にした、赤羽駅に割りに近い道路の、確か補修工事に関わっていた一人の男の姿をいまだに忘れることができない。顔も体形も、高桐が鷲摑(わしづか)みにされる風に最も強く惹きつけられる型の一つに属する男だった。
 作業着姿だった。何日か挟んで、ほぼ同じ場所で、二度見た記憶が残っている。
 細面というより、やや丸みのある渋く男っぽい顔つきの中に、どこかしら可愛げがあった。当時の高桐より何歳かは年上の、三十代に見えた。短い髭(ひげ)を伸ばしていた気がする。
                            
                                (第41回)

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