テーマ:果肉の中の波の声

 (短編小説) 果肉の中の波の声

第39回 (その23) (最終回)  沢崎が焦がれているあの男と二人だけで飲食のできる、連れの男に対する妬(ねた)ましさに飲まれそうになったものの、今更そんなことで俺は苦境に陥りはしないさ、と自身を茶化した。  茶化しきれず、何で俺ではなくてあいつなんだ、というしぶとい声が噴き上がるのを、埒(らち)もない、と強引に封じ込めること…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第38回 (その22)  ビールをグラスにもう一杯飲んだ。そろそろ切り上げなければならない時間だった。久し振りに自分と穏やかに語り合えた。なかなかいい店だった。沢崎は腰を上げた。  特急電車の出発まで10分程間(ま)があった。沢崎は駅前のベンチに腰を下ろし、辺りにぼんやり眼をやった。と、通りの向こう側に、男の二人連れが現れた。…
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 (短編小説)  果肉の中の波の声

 第37回 (その21) 沢崎は更にじっくりビールを飲んだ。ビールがあれば、例えばあの男からこの先もっと手酷(ひど)くあしらわれても、やっていけそうに思えて、可笑(おか)しかった。あの男から邪険に扱われた分、それを補って何倍も余る位、他の男で取り戻せばいいんだ。  あの男を顔でも軀でも上回る男に、この先有り付く…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第36回 (その20)  F駅に着いた。4時過ぎだった。表示を見ると、一時間位で特急電車が止まる。ちょうど好都合だった。駅に着く前にも眼にしたが、駅前の通りに面し、かなり大きな構えの食堂があった。この町を訪れた記念も含め、ゆっくりビールを飲みながら、できればこの地で獲れた魚介などを食べよう。  中に入ると、予想した以上に、室内…
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(短編小説) 果肉の中の波の声

 第35回 (その19)  「F駅へ行くにはどう行ったらいいですか」と沢崎が聞いたとする。「そこの角を右に入って、最初の信号を左に曲がり・・・」と彼が答えてくれるだろう。沢崎の顔つきや語調から、通りがかりの高齢の男がなぜか自分に好感を持ってくれていることが彼に伝わり、彼も表情を和らげて言葉を返してくれる。  「海に近い、いい所に…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第34回  (その18)  今、現に海岸に沿った道を歩いていると、その思念は、「しつこいな」「うるせぇ」という声音とも絡み合い、一段と否定的な、ほんの僅かな望みさえ情け容赦なく吹き飛ばす荒くれた響きを伴なって、沢崎を襲った。ふっと、あの男も沢崎自身も、現実の生身(なまみ)というより実は幻なのだ、という声が波音の間を縫ってどこからとも…
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(短編小説)  果肉の中の波の声

 第33回 (その17)  少し先で大きな崖が迫り、視界が狭まっていた。この辺が引き返し所だった。やはり海が見える方がいいと、沢崎は同じ道を戻った。例の木の建物に行き着く手前辺りで、海から逸れF駅の方に向かおう、と沢崎は考えた。  喉が渇いたこともあって、無性にビールを飲みたかった。電車に乗る前に、F駅近くの店に入ろう。  午…
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(短編小説) 果肉の中の波の声

 第32回  (その16)  沢崎は、男の両足を自分の両の肩に乗せ、再び男の陽根を深々と頬張る。男が、自分の尻の芯がもたらした快美を知ったことで、陽根の旨さにこくが加わっている。男から流れ出る声にも厚みが生じているのが分かる。  ここからは、男の陽根が欲していることを素直に受け入れ、沢崎は口の動きの速度を上げると、一気呵成に結末…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第31回 (その15)  沢崎の両の手のひらが、男の現にこりこり動く両の尻たぶをぴたり挟みながら、口全体は一層細やかな練達した動きを強める。男が零(こぼ)す声が波音と溶け合い、沢崎は男と自分の二体が、海面で揺れる繋(つな)がった二艘の船のように感じる。  男が噴き上げようと一気に突っ走るのは惜しく、沢崎はいったん男の陽根から口…
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 (短編小説) (果肉の中の波の声)

 第30回  (その14)  戸は開いている。沢崎はそっと中を覗く。予想したのとはやや異なるものの、沢崎好みの、短髪で40前後に見える幾分小柄な男が一人、腰を下ろし、煙草を吸っている。衣服の上からも、こりこりと筋肉の締まった様が見て取れる。 「こんにちは・・・入ってもいいですか」と沢崎が言う。男が小さく頷(うなず)く。  沢崎…
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(短編小説) 果肉の中の波の声

 第29回 (その13)  こいつは我慢ならないことばかりの高齢の男だけれど、もう何年もの間、俺からこんなに邪険にされても懲(こ)りずに手を出してくるし、なんだかんだと話しかけてくる。俺の顔と軀;に心底惚れきっていることだけは確かなんだろう。  俺に危害を加えるわけではないし、完膚なきまでに打ちのめすことまではしな…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第28回  (その12)  それから一、二年経った頃だったか。男が沢崎への嫌悪を更に露わにした時があった。同じサウナでのことだった。スティームサウナに入ろうとする男の腰の辺りに、沢崎が手を出した。 「うるせぇ」 周囲の男たちへの配慮もあってか、抑えてはいるものの憎悪と憤りの極まった風な声を投げつけた。  それにもかかわらず…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 (第27回)  (その11)  これまでに、数え切れない数の男たちと交合している筈なのに、どうしてあんな初心者のような、一本調子で余裕のないやり方をしてしまったのかと、沢崎自身解(げ)せない思いがした。もっと様々な方法を駆使して、彼を丸ごと底深い快美に漬からせることができたら、その後の彼との展開も違ったものになったかもしれないのに・…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第26回  (その10)  海に向かって右手の方向の波打ち際を、沢崎は歩いた。あの男が来ていることを知ったことで、さっきまでに増して、砂にも岩にも海波にも彼の裸の記憶がまとわり付いていた。骨太でやや小柄な背丈と、厚く締まった筋肉。がっしりと四角っぽい尻。幾分色黒な肌。薄っすら少年の名残りを止(とど)めている、渋くて意志の強そうな…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第24回  (その9)  男の言葉は一つ一つ身に応えるにもかかわらず、反面、遠のいていた潮騒を再び耳にしたような、静まった快さを沢崎は覚えた。 「この町に来るのは初めてですか」 沢崎は、男よりもっと淡々とした言い方になるように意識した。 「もうおまえに言うことはない。友人と待ち合わせているんだ」と、男は返したが、やはり、「…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第23回 (その8)  男の年齢を聞いたことはなかったが、かなり若く見えるものの、40代の半ば位かと沢崎は思っていた。海辺の有り余る光の中で、男の顔が初めて年齢相応に見えた気がした。 「正直に言うと、この前サウナで会った時、他の人と交わしていた言葉が偶然耳に入ったんです。この海辺の町の名前と、土曜日という二つが」 沢崎の声は…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第22回  (その7)  意を決して、沢崎は椅子から離れた。近寄っていくのか遠ざかっていくのか測りかねるような感覚と共に、沢崎は男のテーブルへ近づいていった。その割に足取りは速かった。飲料を手にした男の顔が沢崎の方へ向けられた。あの男に間違いなかった。  男の顔がさすがに強ばった。無理もなかった。何でここにこいつがいるんだ、ど…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第21回  (その6)  割りに近い海面が一番深い色合いを帯び、視野全体に収まる海全体が何種類もの青の層に分かれた。踏ん切りをつけ、立ち上がりかけ、沢崎は右手奥のガラス扉の方に何気なく眼をやった。 「あっ」という意表をつく声が、沢崎の内に向かって走った。やや遠目にはなるものの、目当てのあの男ではないかと思った。男は、ハンバーガー…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第20回  (その5)  床が右手に折れ曲がる位置に沢崎は立った。これまでの床の上より、幾分人の姿があった。それでも六、七人だった。一渡り見回したが、当然のように、あの男の姿はなかった。あの男だけが抜き取られた空間が、海岸の先の先まで果てもなく広がっている・・・。他(ほか)の人間は男にしろ女にしろ総て揃(そろ)っているのに、いて…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第19回  (その4)  沢崎はいったん浜に降りた。間(ま)を取りたかった。陽は射していなかったが、海も空も共に先程より明るさを増していた。何をためらっているんだ、怖がっているのか、という声に、少し位しようがないだろう、それに急(せ)いても仕方がないさ、と言い返しながら、沢崎はもう一軒の建物の方に足を向けた。  今しがた浜に下…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

第18回  (その3)  ただ、それにもかかわらず、沢崎はこの日のこの時間、この海辺を訪れることに少しもためらいはなかった。万一会えるとしたら、この海辺だろう。ここで会えないとしたら、尚更、他(ほか)の場所で会える筈もないのだ・・・。沢崎の裡(うち)の一番遠そうな地点に、そう語りかける声の源が潜んでいるに違いなかった。その声に耳を…
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 (短編小説) 果肉の中の波の声

 第17回  (その2)     波音とともに、海が一気に広がった。海辺は、さして広くない砂浜と岩場が混ざり合って見えた。海岸線に沿う道に出た。沢崎は暫らく立ち止まってから、これという目算がある訳ではなかったが、右に折れた。海辺にやや迫(せ)り出す形で、飲食のできる休憩所風の木の建物が見えた。焦げ茶と臙脂(えんじ)の二色が…
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(短編小説) 果肉の中の波の声

第16回  「三島由紀夫の内的風景  「荒野」からの声」を書き終えてから、三週間以上空白ができました。写真家円谷順一(えんや・じゅんいち)(通称 大阪のおっちゃん)について書くには、やはりまだまだ準備不足です。  私がこれまでに書いた小説の中で、一番新しい作品(今日 2007.9.20に書き終えたところです)を載せたいと思います。4…
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