アートに欲情しよう!

(その12) 弾人(だんと)の巻
 画像弾人の漫画作品の放つ官能性と情感の深さに、以前から私は惹かれていた。掲載されている雑誌「薔薇族」(第二書房刊)の、私が所蔵していた10冊以外に、それよりずっと多い17号分を、今回、国会図書館でコピーし読んだことで、彼の作品世界のおおよそ全体を知ることができた。弾人作品を越える淫らな(表層から深部まで含め)漫画を読んだことはないとの感を私は改めて持った。 ただ、彼の経歴その他について知るところは、現時点では私にはほとんどない。
まず、私がこれまでに読んだ弾人漫画の一覧を書こう。(掲載誌はすべて「薔薇族」)
1・・・「残業痴態」           340号(2001<平成13>年5月号)
2・・・「銭湯欲情」           341号(2001年6月号)
3・・・「見られてる!」        342号(2001年7月号)
4・・・「指人狂(ゆびにんきょう)」    346号(2001年11月号)
5・・・「手淫口淫(てみだらくちみだら)」 347号(2001年12月号)
6・・・「連穴乱奴(れんけつらんど)」    348号(2002<平成14>年1月号)
7・・・「晒し者(さらしもの)」        349号(2002年2月号)
8・・・「夜泣き竿(よなきざお)」        350号(2002年3月号)
9・・・「乱恥奇!バイブ遊戯」        352号(2002年5月号)
10・・・「魔羅探り穴探り(まらさぐりあなさぐり)」 354号(2002年7月号)
11・・・「独り焦らし(ひとりじらし)」     356号(2002年9月号)
12・・・「舌這わせ(したはわせ)」     358号(2002年11月号)
13・・・「疼くところに手が届く」     359号(2002年12月号)
14・・・「男体虜肛(だんたいりょこう)」  361号(2003<平成15>年2月号)
15・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の一)」 363号(2003年4月号)
16・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の二)」 365号(2003年6月号)
17・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の三)」  366号(2003年7月号)
18・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の四)」 367号(2003年8月号)
19・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の五)」  369号(2003年10月号)
20・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の六)」  370号(2003年11月号)
21・・・「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の七)」  371号(2003年12月号)
22・・・「突貫!工児(とっかんこうじ)」  373号(2004<平成16>年2月号)
23・・・「男・咲乱(おとこ・さくらん)」  375号(2004年4月号)
24・・・「裸専階段(らせんかいだん)」  377号(2004年6月号)
25・・・「裸証文(らしょうもん)」  378号(2004年7月号)
26・・・「男吠え(おとこぼえ)」  380号(2004年9月号)
27・・・「男汁祭り(だんじるまつり)」  381号(2004年10月号)
画像
2001年から2004年にかけて描かれ、「戯兄弟(ぎきょうだい)」のみ七回にわたって連載されている以外は、すべて一回で完結している。断言はできないが、少なくとも「薔薇族」に掲載された作品はこれらで総てだと思われる。また、「薔薇族」以外のゲイ雑誌にも掲載されたかどうか、私は読んだ記憶がない。例えば作者名を変えて載っていたとしても、数はそう多くはないのではないか。更に、一般誌にも掲載されているかどうかは分からない。
画像 
 弾人漫画の有り様(よう)を、<時間(歳月)><夢><言葉>の三つの切り口で捉えてみたい。
最初は<時間(歳月)>。
典型的な作品は、27の「男汁祭り(だんじるまつり)」か。少年時代、何年にも渡って、夏祭りの日に年に一度持った露天商の男との交合が、主人公は知らないまま、男の死によって断たれる。
歳月が流れ、すでに結婚し子供もいる主人公が、同じ夏祭りの日に、亡くなった露天商の子供で、すでに壮年になっている男と出会う。亡くなった男との交合が言わば復活する・・・。左中段の画像は、作品の最後に近い、壮年になった露天商の子供と主人公の、ともに思いの丈(たけ)をこめた交合の場面。
 12の「舌這わせ(したはわせ)」も、基本の構造は共通する。
小学校の高学年時から高校時代まで、主人公は卸商の源一おじさんと交合する。大学入学とともに郷里を離れた主人公のもとに、源一おじさんの死の知らせが届く。何年か経ちやっと忘れかけた主人公の家に、源一おじさんによく似た男(荷物の配達人)が現れ、関係を持つ形へと発展する・・・。
  26の「男吠え(おとこぼえ)」はやや変形されているが、ある歳月をはさみ、二人の男たちの交合が成り立つ形だ。
また、8の「夜泣き竿(よなきざお)」では、二人を隔てた歳月は2年間とやや短い。しかも、一方の行方が分からなくなることで、両者の関係は復活しないままに終る。
相手は変わりながらも関係が復活するにしろ、終わってしまうにしろ、挟まれた孤独な時間(歳月)の中、当の相手をひたすら思い続ける欲情と情念の濃さを、作者弾人はそのまま引き受けることで、作品全体が深い淫らさで浸(ひた)されていく。
画像 
次は<夢>。
例えば、5の「手淫口淫(てみだらくちみだら)」では、薬を使って作り出した、言わば夢と現実の中間的な状況の中で、管理人の高年の男と若い男が夜毎交合する。淫靡(いんび)な色情(しきじょう)の濃さという点では、上記全27作品中私にはこれが最高峰だと感じられる。右手の画像は、この作品の後半の一場面。
22の「突貫!工児(とっかんこうじ)」は、夢と現実と願望(想像)が一つに溶け合った形か。
23の「男・咲乱(おとこ・さくらん)」では、義理の兄への恋情が実際の夜の夢になって現れる。
 19の「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の五)」は、夢は関連していないが、5と同様、薬が仲立ちとなって、義理の父と子の仲が交合へと進展する。
 画像20の「戯兄弟(ぎきょうだい)(其の六)」は、其の五を受け、ことに義理の父の、子(兄)に対し長い間押し殺してきた欲念が一気に解き放たれる。七回に渡って連載された「戯兄弟(ぎきょうだい)」の中で、淫らさでは其の六が抜きんでているようだ。左の画像は、其の六の中で、私の目には一番エロい絵(笑)。 
ともあれ、特定の男に向かう欲念のただならぬ深さが、現実を、夜の時には昼の夢の中に引きずり込み、また同時に、それらの夢を現実の方に手繰り寄せるのだろう。

もう一つの切り口は<言葉>だ。
タイトルに象徴的に示されているが、4「指人狂(ゆびにんきょう)」(中年の男の屈折した欲念がしんしんと伝わって来て、私が強く惹かれる作品の一つだ)、5「手淫口淫(てみだらくちみだら)」、8「夜泣き竿(よなきざお)」、27「男汁祭り(だんじるまつり)」などの言葉の持つ淫らさと真率さは桁(けた)外れだ。言葉自体がとろとろ発情している。漫画に限らず、これほど情の濃いタイトル群は、私は他にはまず目にしたことがない。
 長い間に渡って、自己の内の欲情の有り様(よう)と真っ直ぐ向き合い続ける中で、作者弾人はそれを絵像として捉えると同時に、恐らく意識して言葉として確認することを並行したと思う。長い歳月の中で、絵像も言葉も酒のように芳醇に発酵する。作者の中で、<絵像>と<言葉>が日毎夜毎ひしひし交合する・・・。
 タイトルが淫らな作品は、押し並べて中味の味わいが濃いのもその証左かもしれない。

 最初の左上段の画像は、24「裸専階段(らせんかいだん)」から取ったもの。私が読んだ27全作品の中で、私には一番淫らだと思える絵像だ。がっちりと盛り上がり、舌が蕩(とろ)けそうなほど旨そうな尻だ(笑)。舐めれば舐めるほど、もっと欲しくなる・・・。
 二番目の右上段の画像は、2「銭湯欲情」の中のものだが、締まった尻の形がくっきりとよく分かる。左上段の画像も含め、作者弾人と私は好みの尻の形がぴたりというくらい一致するようだ(笑)。
 色彩的には、「薔薇族」誌面では、例えば地の白と絵の青紫、地の薄茶と絵の黒など、黄土色、暗緑色、青緑その他も含め、大きく二色で印刷されている。編集の段階でそのように按配したのかどうか、また、元々の原画はどのような色合いかは不明ながら、全体にすっきりと渋い味わいがあって、弾人作品には効果的だと思う。ただ、私が国会図書館でコピーした作品は、カラーコピーが高価なために(笑)、残念ながら大半は白黒だ。
 ちなみに、登場人物の顔形などに竹本小太郎氏の作品とどこかしら似通う面も感じられる。或いはなにがしかの影響を受けているのかもしれない。
 現在の作者の状況は分からないが、叶うなら新作も目にしたいものだ。
加えて、弾人作品集を刊行する出版社が現れることを、私は強く願う。

上記以外の弾人作品をご存じの方、お伝えいただけたらありがたいところです。
また、作者ご本人から連絡いただけたら、尚のこと大変うれしく思います。
 (「荻崎正広コレクション ゲイ・アートの家」のHPからメールなど送っていただける形になっています)                                                (2011.4.11)

 

 

 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 17

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい

この記事へのコメント

遠方
2011年07月03日 08:41
お元気ですか?
続きを楽しみにしています。
荻崎正広
2011年07月03日 22:50
「遠方」さんへ
例によって、すっかり間が空いてしまいました(笑)。
忘れられないように、そろそろ何か書いたほうがいいですね・・・。
羽武井電斗
2011年07月11日 23:20
初めてコメントします。
弾人作品、エロいだけではなく絵から醸し出されている陰湿な感じが私好みです。
紹介されているコマに至るまでの過程も是非見たくなりました。弾人全集、発刊されるといいですね…
荻崎正広
2011年07月12日 15:11
「羽武井電斗」さんへ
コメントありがとうございます。
弾人作品に流れるしっとりした情感は、作者が自身の欲情と真正面から向きあっているところから来るのではと私は思います。
作品集が刊行されることを願って。
弾人
2011年11月25日 14:47
初めまして…弾人です(紛れもなく本人ですw)。
自分の作品が記事にされてるとのことで覗かせて頂きました。
私の拙い漫画をこのような過大評価とも言えるほどにお褒め頂きまして
なんだか気恥ずかしいやら申し訳ないやらで・・・。
諸事情でこの先『弾人』としての作品を描ける可能性は殆ど無いでしょうが
何はともあれ…取り上げて頂き…本当にありがとうございました。
とても嬉しかったもので、ついついコメント欄にお邪魔してしまいました。
それでは・・・失礼致します。
荻崎正広
2011年11月26日 01:20
弾人さんへ
作者ご本人からコメントいただき大変うれしく思います。
掲載してからだいぶ期日が経ったので、気づいていただけなかったかとも思っていました。
別名でも是非書いていただければ・・・。
できましたら、私宛のメールか電話などいただければと思います。
ではまた。
淫青年
2012年10月04日 01:17
こんばんは、はじめまして。自分は20代の者ですが
自分も弾人さんの漫画に興奮してる一人です
自分も同じく単行本出してほしいのですがご本人のまさかのコメントに
今後書くことはないとのことなので本当に残念です
特に手淫口淫は自分も全く同意見です
ゴツめの中年の男に犯される30代半ばくらいの逞しい男の描写は本当にエロすぎです
04年にたまたま中古雑誌で買った薔薇族に載っていて読んでるだけで頭がクラクラする作品です。今でも時々お世話になってます。
他の作品も中古雑誌やハッテン場などに置いてあるので見たりしまして
ここに詳しく全作品載っていたので読んだことなかったのは自分も国立図書館に行きました。恥ずかしいことに国立圖書館に行ったのはそれが初めてでした。
竹本=弾人で間違いないと思います
ご本人さんのコメントにそうメッセージが込められてるように思います
荻崎正広
2012年10月04日 14:52
「淫青年」さんへ
詳しいコメントありがとうございます。
国立国会図書館にも行かれたとのこと、感心しました。
弾人と竹本小太郎が同一人物であることは、このブログを書いた後、竹本氏のHP(確か)を見て私も了解しました。
できたら私の美術館にもぜひお越しください。
淫青年
2012年10月08日 00:47
萩崎さんへ
レスありがとうございます
昔の色々な本をお持ちなのでしょうか
個人でご自宅とかでギャラリーを開いてるのですか
国立国会図書館には去年の11月に行きました
他のネットでここ「アートに欲情しよう」を知り
弾人さんの記事を見つけ、自分も仕事帰りに国会図書館に行きました
平日の夜だったので、時間もかからず作品を見れました
萩崎さんの丁寧な作品の一覧のおかげです ありがとうございました
同じことを書きますが手淫口淫は秀逸です
こういう漫画は他にないと思います。文章能力がないので上手く書けないのが恥ずかしいです。
淫青年
2012年10月08日 00:55
連続レスになります
私設で美術館を開いてらっしゃるのですか
自分は昔の雑誌アドンを読みたいとずっと思ってました
少しここでも紹介されてます
素敵ですね 
そして萩崎さんのプロフィール画像は東風さん撮影の画像とのことですが
東風さんは90年代くらいに素晴らしい写真集を出したとかなんとか、、、
どこにも手に入らないんですよね、、
萩崎さんの感性のアンテナに自分も反応しています
美術館があるのなら行ってみたいです
荻崎正広
2012年10月08日 23:32
「淫青年」さんへ
「アドン」もそれなりの号数保管しています。
また、東風氏の写真や写真集は相当数所蔵しています。
ぜひお越しください。
「萩」ではなく、「荻」が正確です。
淫青年
2012年10月14日 19:09
荻崎さんへ
誤字、大変失礼しました
アドン、是非とも読んでみたい雑誌です
どちらに伺えばいいのでしょうか
荻崎正広
2012年10月15日 00:35
「淫青年」さんへ
私の私設美術館「荻崎正広コレクション ゲイ・アートの家」で所有しています。
湘南のサトウです
2015年03月08日 14:10
荻崎正広様へ

本日は思いがけずに、他の件を検索中に荻崎様のブログに辿り着き来ました。

昭和58年に荻崎正広著『夢幻の野へ』(鳥影社)という小説集を読んでからは、
荻崎様へ直接お願いして『彼方の海辺へ』と戯曲集『吹き荒ぶ生身の森へ』等も
読ませて頂きました。

特に『夢幻の野へ』に収められた「秋の声」主人公と高校生の交情の強烈で、
格調の高い文章で書かれた場面は、今でも思い出されます。

そして、思い出した時には書棚の奥から取り出して読み入る事があります。
帯文と折込の「解説」文を書かれた、国文学者の松田修先生の文章なども
本書の価値を定める貴重な「証書」のようになっておりますので、私は、
今も大切に保存しております。

さて、平野剛や田亀源五郎など懐かしい名前とともに、国文学者の阿部
正路氏も出版社主の伊藤文学氏と大学の友人であったという関係から、
雑誌「薔薇族」に飛鳥時代を背景とした、美しい貴公子たちの恋物語を
書かれて居たことなども思い出されました。

今回は「アートに欲情しよう!」(その1)を拝読させて頂きまして、
衰えのない文章力に感嘆致して、この投稿を書き出しましたが、この
後で、ほかの文章も拝読させて頂きます。

先ずはこのような身近な所で荻崎様のお書きの文章に再会できた事に
心から感謝とお礼を申し上げまして、この嬉しい気持ちを記しました。

ただ、更新日が少し遠くなっていることが気になりますが、どうぞ、
ご無理のないように、そして、さらなる健筆をお祈り致します。
(湘南のサトウ拝)
荻崎正広
2015年03月08日 15:53
湘南のサトウ様
コメントありがとうございます。
小生の著書をていねいに読んでいただき、恐縮です。
「アートに欲情しよう!」の「その12」を読んでいただいたのですね。
2015年の1月には、最新になりますが、高橋睦郎氏の『善の遍歴』に関連したものを書いています。お読みいただければ幸いです。
「ゲイ・アートの家」のHPも読んでいただけたらと思います。
これからもよろしくお願いします。

この記事へのトラックバック

  • 『秘密の催眠療法』は漫画本より電子コミックがおすすめ!

    Excerpt: REDLIGHTの『秘密の催眠療法-猥褻セラピストの手によって解放される牝の性…』を読むなら、漫画本より電子コミックのほうがメリットがたくさんあって便利です Weblog: 秘密の催眠療法【無料試し読み】と読んだ感想 racked: 2018-03-05 17:13